日本の小学生の研究が、「カブトムシは夜行性」というこれまでの常識を覆した。
研究成果はアメリカの生態学専門誌『Ecology』に掲載された。
近所のクヌギの木にカブトムシを捕りに行くのはいつも夜だった。
しかし、庭の木には昼間になってもカブトムシがいた。「なぜだろう?」
カブトムシが集まる庭の木は、東南アジア原産の植物シマトネリコだった。
日本では庭木や街路樹として使われているが、もともとは台湾やフィリピンなどに生えている。
柴田さんは「樹液がおいしいからだろう」と考えたが、昼間も居続ける理由が分からなかった。
図書館で題名に「カブトムシ」と書いてある本を片っ端から借りて読みあさった。
すると、シマトネリコにはカブトムシが昼間も残っているようだ、と書いてある本を見つけた。
その本の著者が、動物生態学を研究する小島さんだった。柴田さんの母親が連絡先を調べ、
「息子がどうしても聞きたいことがある。よかったら答えてくれませんか」とメールを送った。
カブトムシについての著書を複数出している小島さんも、なぜ昼間にカブトムシが集まるのか、
理由は分からなかった。これをきっかけにメールのやりとりが始まった。
柴田さんの家の木のカブトムシが集まり始めたのは2019年。カブトムシは夜行性とされる。
日没後に樹液を求めてクヌギなどの木に集まり、夜が明ける5時ごろには飛び立ってしまう。
小学4年の夏、自由研究にしようと、家の木に集まるカブトムシの数をオスとメスに分けて数え始めた。
柴田さんは2019年と2020年の夏に、自宅の庭のシマトネリコに来るカブトムシの数を、
1日につき3から5回、毎日数えました。
その結果、夜が明けて完全に明るくなっても多くの個体がシマトネリコで採餌や交尾を行っていた。
2020年にはカブトムシに油性マジックで固有の印をつけて追跡調査を実施。
その結果、多くの個体は夜間にシマトネリコに飛来し、日中もそのまま同じ木にとどまり続けていることが判明。
シマトネリコにおけるカブトムシの活動パターンは、クヌギでみられるものと全く異なるものだった。
不思議なことに、シマトネリコを主に利用する台湾のカブトムシは、夜間に活動することが知られている。
日本のカブトムシは、普段利用しないシマトネリコに出会うことで、本来の活動パターンが変化したと考えられた。
今回の発見は、利用する植物種と昆虫の活動リズムの関係を解明する上でも注目すべきものだという。