鎌倉市は2018年の憲法記念日の講演会で、
憲法学者の木村草太氏の講師起用を拒否した問題で、
同市が講演会の前に、木村氏の起用を提案した実行委員会に、事実と異なる説明をして、
主催者から外していた。
市は「担当者が事実誤認していた。虚偽という表現も当てはまるかもしれない。
申し訳なかった」と謝罪した。
講演会を含む平和事業の主催は17年までは市と公募で選ばれた市民でつくる実行委だった。
しかし実行委の議事録によると、実行委が提案した木村氏の起用について、
市側が憲法学者であることを理由に拒否した後に開かれた、
18年3月の会議で、市担当者は「共催基準が変わった」とし、
実行委を主催者でなく「企画・運営」にすると報告。
「活動のあり方は全く変わらない」と説明し、委員の了承を得た。
しかし今年3月、市文化人権課(4月に文化課に名称変更)は、
「共催基準の変更はなかった」とし、
「議事録の内容は事実でなく、虚偽という表現も当てはまるかもしれない」と答えた。
当時の委員の一人は、こうした説明は聞いた記憶がないとし
「市民をばかにしている。市の説明にうそがあったら信頼して議論ができない」と憤った。
市側が作成した議事録によると、実行委は17年12月に講師の選定を始め、
木村教授を含む3人を候補に挙げた。
ところが翌年1月の会議で市の担当者が、「政治的要素が見られる」と難色を示した。
委員は「全く政治性のないことはありえない」と反論し、あらためて木村教授を1番目の候補者として5人を提案した。
しかし、後日、市の担当者から「木村教授は許可が下りない」という趣旨の連絡が委員に入ったという。
講演会は18年5月3日、鎌倉生涯学習センターで別の講師を招いて開かれた。
市の担当者は「事業実施に当たっては行政の中立性を損なわない内容が前提。
憲法記念日のつどいで憲法学者が講演すると憲法九条にも言及する懸念があり、
木村氏の講演は遠慮願いたいと実行委に伝えた」と話した。
委員の1人は「いろいろな考えがある中、平和のためにみんなで話し合ってやってきた。
政治を持ち込んだのは市だ」と指摘。
木村教授は一般論として、「憲法学を専攻する学者が、憲法記念日に憲法について解説する講師として、
不適切な合理的な理由は考えにくく、(講師起用の拒否は)差別に当たる可能性がある。
学者が九条を分析すれば、改憲・護憲どちらかに有利になることはあり得るが、
それで行政が政治的中立性を害したことにはならない」と話した。
自治体が「政治的中立性」を理由として市民の表現活動を事実上制限する例は、各地で相次いでいる。
さいたま市の公民館は2014年、市内の女性が詠んだ「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」という俳句を、
「世論を2分する内容で、掲載は公民館の公平性、中立性を害する」として、
公民館だよりの掲載を拒否。作者の女性が起こした訴訟で、
東京高裁は「思想や信条を理由にした不公正な取り扱い」として市に賠償を命じ、
18年に最高裁で判決が確定した。
神奈川県茅ケ崎市は15年、沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設に反対する、
住民の姿を追ったドキュメンタリー映画「戦場いくさばぬ止とぅどぅみ」の自主上映会の後援を申請されたが拒否。
市の担当者は「中立性を欠いた表現や国政を批判する内容」が含まれていることを理由に挙げた。
16年には鹿児島市が、市主催の市民向けヨガ講座の講師が「反核」とプリントされたTシャツを、
私服で着ていることを問題視。講座中は別のヨガ専用着を着るにもかかわらず、
「特定の政治的主張と受け取られかねない」と契約更新を拒否した。
‘@全国の保守的な自治体で、民主主義に逆行する非中立的対応が相次いでいる。
何を怖がっているのか。誰の判断か、指図か。
両極端に強く反対する市民の側にも問題があるのかもしれない。
いろんな思惑が交差しているようだ。