副作用もないがん治療薬。
プリンストン大学のがん研究者であるYibin Kang教授らの研究チームによると、
転移性乳がんはアメリカだけで毎年4万人以上の死者を出しており、化学療法なども効果が薄いとのこと。
転移性の乳がん患者の5年生存率が29%しかないのに比べて、
非転移性の乳がん患者の5年生存率は99%もあることから、
乳がん対策は転移をいかに防ぐかが重視されてきた。
乳がんの転移や再発について、Kang教授は、
「なぜ、早期乳がんの患者でも、再発を繰り返す人とそうでない人がいるのか分からなかった」と話す。
乳がんをはじめとするがんの転移に大きく関わっているとされているのが、
「メタドへリン(MTDH)」というタンパク質と、これを合成するために存在するがん細胞の遺伝子。
15年以上にわたってMTDHの研究をしているKang教授によると、
MTDHは、ほとんどの主要ながんの転移に関与している一方で、
正常な体細胞にとってはまったく重要ではないとのこと。
事実、MTDHを合成する遺伝子を持たないマウスを用いた実験により、
MTDHがないマウスは普通のマウスと同様に成長し繁殖できる上に、
がんになっても転移や再発を起こさないことが確かめられている。
しかし、マウスとは違ってがん患者の遺伝子を書き換えることはできない。
そこで、Kang教授はMTDHをいかに無効化できるかを調べる研究を続け、
2021年11月29日に発表された2本の論文の中で、
ついにMTDHが機能するのに必要な「SND1」というタンパク質と、
MTDHとの結合を阻止する化合物の特定に成功したことを発表。
MTDHの働きを阻害する化合物でできた薬を投与すると、
化学療法の効果が各段に高まる上にがん細胞が転移するリスクも低下するとのこと。
MTDHが無効化されても正常な細胞には影響が出ないため、副作用のおそれも最小限だという。
しかも、この薬は特定のがんではなく主要ながんのすべてを対象としているという、
素晴らしい特長を持っています」と話した。
研究チームは今後、MTDHを抑制する化合物を治療薬にする研究を進めて、
2~3年後には人間の患者を対象とした臨床試験を行う予定だという。