Tilman Blasshofer/Reuters TV via REUTERS
独連邦検察庁が独自国家樹立のため現体制の転覆を狙って連邦議会の襲撃を企てた疑いがあるとして、
極右テロ組織と支援者計25人を拘束。
警鐘を鳴らしてきたドイツ非営利組織CeMASのミロ・ディトリッヒ上級研究員は、
陰謀論イデオロギー、偽情報、反ユダヤ主義、右翼過激主義に対する早期警告システムの構築を目指す。
「何年もの間、当局はデジタル空間を真剣に考えず、法整備が不十分だ。
このため極右テロリストのサブカルチャーが何の規制も受けることなく繁殖することが可能になり、
未成年者でも簡単にアクセスできる」
独裁者アドルフ・ヒトラーが第二次大戦を引き起こし、ユダヤ人やマイノリティを虐殺したドイツは、
戦後、ナチズムや極右思想を徹底的に排除して自由と民主主義、平和主義の模範生になった。
今や欧州連合(EU)の押しも押されもせぬリーダーだが、欧州債務危機や100万人を超える難民がドイツに押し寄せ、
欧州難民危機で極右勢力が台頭するようになった。
今回の事件について、ディトリッヒ上級研究員は、
「彼らはドイツ軍ともつながっている。辛い出来事だったコロナ・パンデミックによりグループがさらに過激化し、支援者も増えた。
陰謀論は多くの人々にとって非常に魅力的だった」と語る。
陰謀論は自分の存在意義を見失った人たちに居心地のいい独自の世界観を与えている。
主犯格の1人は「ハインリヒ13世」を名乗る男(71)で、貴族の家系出身。
元連邦議会(下院)議員で現職裁判官ビルギット・マルザック=ヴィンクマン容疑者や元空挺部隊員も拘束された。
この組織は昨年11月末に設立され、1871年のドイツ帝国を模倣した王政を復活させることを目指し、射撃訓練も行っていた。
拘束された支援者3人のうち1人はロシア出身。オーストリアとイタリアでも1人ずつ逮捕された。
このほか27人の容疑者がいるという。
容疑者が所有する国内の関係先130カ所以上に3000人超を投入して捜索に当たっている。
ナンシー・フェーザー内相は「摘発された組織は、暴力的な幻想と陰謀論に突き動かされている」と述べた。
拘束者の中には米国の過激な陰謀論勢力「Qアノン」の信奉者も複数含まれていた。
ドイツ政府が「ディープステート(闇の政府)」に支配されているとの陰謀論を信じ、国家転覆を計画していたとみられている。
ディトリッヒ上級研究員は「暴力の可能性は常にあったが、より具体的になりつつある」と前から指摘していた。
「なぜ陰謀論は今日の社会に肥沃な土壌を見つけることができたのか」という疑問に対して、
ディトリッヒ上級研究員は『ドイツのQアノン』という報告書の中でこう答えている。
「現代社会は分断され、伝統的な出会いの場が失われつつある。
同時に人々はコミュニティに憧れ、オンラインスペースに居場所を見つける人もいる」
「多くの人が日常生活で見出せなくなった自分の人生に意味を与えてくれる物語を渇望している。
右翼過激派の物語に目を向けるかもしれない。イスラムに対する戦い、移民に対する戦い、
ユダヤ人に対する戦いなどの物語だ。今、私たちは陰謀論イデオロギーへの転換を目の当たりにしている」
独国営国際放送ドイチェ・ヴェレ(DW)によると、ライヒスビュルガー運動のメンバーは、
第二次大戦後のドイツ連邦共和国の存在を否定している。
現在の国家は米英仏に占領された行政上の構築物に過ぎず、戦前の国境がまだ存在していると考えている。
宣伝用のTシャツや旗を作り、自分たちでパスポートや運転免許証まで発行している
独連邦憲法擁護庁(BfV)によると、メンバーは国内に約2万1000人、うち5%が極右過激派に分類される。
多くは男性で、平均年齢は50歳以上。右翼ポピュリスト、反ユダヤ主義、ナチスのイデオロギーを信奉している。
税金を納めることを拒否し、自分たちが保有する小さな「領土」を宣言。
拘束されたグループは「疑似政府」を準備していた。
捜査当局によると、ロシアとドイツの新しい国家秩序を交渉するため暫定政府を設立する計画があったという。
グループは銃器に親しみ、一斉捜索で大量の武器や弾薬が押収された。
ライヒスビュルガー運動にはドイツ軍や旧東ドイツの国家人民軍の元兵士もかなり含まれ、
特殊な軍事訓練を受けた者もおり、以前から危険視されていた。
ディトリッヒ上級研究員は「歴史を見ると、危機のたびに陰謀論イデオロギーが拡大している。
国民がこれまでと同じように物事をどう続けていけば良いのか分からなくなった時、秩序が失われる。
こうして不安は生まれ、その対症療法として陰謀論イデオロギーへと逃避していく」と分析。
2016年12月、ワシントンのピザ屋に男がライフル銃を持って押し入り、3発を発射した。
男は民主党大統領候補だったヒラリー・クリントン氏がこのピザ屋に幼い子供たちを性奴隷として拘束しているという、
Qアノンの陰謀論を信じていた。
クリントン氏を嫌うQアノン支持者にとってドナルド・トランプ前米大統領は一種の救世主的存在になった。
昨年1月に米連邦議会を襲撃したのもトランプ氏をあがめるQアノンの信奉者だった。
陰謀論イデオロギーがはびこる背景には社会の分断がある。
勝者総取りのネオリベラリズム(新自由主義)が拡大させた貧富の格差、
コロナ危機、ウクライナ戦争が悪化させたエネルギー危機とインフレで社会のフラストレーションは爆発寸前に達している。
民主主義は危機に瀕している。
‘@ドイツでこういう流れがあり、増加しているというのには驚きだ。
トランプ氏押しのQアノンは日本でも活動しているが、やはり少々暴力的だ。
日本で言えば昔のオウムの匂いがする。
世界的な流れを甘く見ない方が良いようだ。