あらゆる分野に精通し、比類なき万能の天才として知られている「レオナルド・ダ・ヴィンチ」
没して5世紀が過ぎたが、いまだ彼の残した偉業は完全には解明されていない。
新たな研究で、ダ・ヴィンチは、万有引力の法則の発見したといわれているニュートンよりも100年以上前に、
重力の存在に気が付いていたことが、彼の残したスケッチから明らかになったという。
『Leonardo』(2023年2月1日付)に掲載された研究では、「アランデル手稿」というダ・ヴィンチのノートに描かれた三角形を分析。
それによると、彼のスケッチは「重力による物体の運動」と「実験者が作り出した運動」とが「等価」であることを表しており、
重力がある種の加速度であることをダ・ヴィンチが認識していたことがうかがえるという。
水瓶を真横に倒せば、もちろん中から水が流れ出てくる。そのとき、落下する水の速度に合わせて、水瓶を水平に引いたらどうなるか?
落下する水滴を「斜辺」、それが落下した距離と水瓶の動きを「底辺」や「高さ」と見立てると、
そこに「二等辺三角形」が出現する。ダ・ヴィンチはスケッチでこのことを指摘。
つまりダ・ヴィンチは、水の落下速度が一定ではなく、だんだんと加速することや、
もはや水瓶の動きによって影響されないことに気づいていた。
じつは、このような落下する物体の速度が時間とともに変化するという認識は、
地球の「万有引力定数」を求めるうえで重要な一歩だった。
カリフォルニア工科大学のモルテザ・ガーリブ氏らは、今回の研究でこう述べている。
約500年前、レオナルド・ダ・ヴィンチは、重力の謎と加速度との関係を明らかにするべく、
想像力と卓越した実験技術による独創的な実験をおこなった
傑出した頭脳を持つダ・ヴィンチは、この落下する物体の加速度を数学的に表そうとしていたが、
完璧にはできなかったようだ。
もしかしたら、当時はまだ正確に時間を測定する手段がなかったことや、
のちにニュートンが考案する微積分学もなかったことが原因かもしれない。
それでもダ・ヴィンチの手法からは、現代知られている万有引力定数の97%の値が算出されるという。
ガーリブ氏らによると、もし彼が手稿に描かれていた実験を実際にやっていたのであれば、
意図的に重力の効果を発生させた人類最初の人間がダ・ヴィンチだったとしてもおかしくないという。
同氏らは、幾何学のような当時でも使えたものを駆使して、未知の謎を探求したダ・ヴィンチのやり方に感動。
ガーリブ氏は、「ダ・ヴィンチがさらなる実験をしたかのか、この問題をさらに深く探究したのかどうかはわかりません」と語る。
だが1500年代初頭に早くもこの問題に取り組んでいたという事実が、ダ・ヴィンチがいかに先進的な人間だったのか実証しているという。