逮捕されたのは、三郷市鷹野の無職、岡庭由征容疑者(26)。
2月、警察手帳を偽造したなどとして逮捕・起訴されていた岡庭容疑者を、
7日、夫婦に対する殺人の疑いで逮捕した。
この事件はおととし9月23日の未明、茨城県境町の住宅で、
寝室にいた会社員の小林光則さん(当時48)と妻の美和さん(当時50)が、
刃物で刺されて殺害されたもの。
子ども部屋にいた長男(当時14)と次女(当時13)もけがをした。
熊の撃退スプレーを使用している。
捜査関係者によると、岡庭容疑者は、小林さん夫妻の胸や首などを刃物で複数回刺し、
失血死させた疑いが持たれている。傷は上半身に集中していた。
岡庭容疑者は、去年11月、三郷市の自宅に硫黄45キログラムを貯蔵したとして、
火災予防条例違反の疑いで、逮捕・起訴されていた。
自宅別棟の1階にあるという自室からは、有毒な硫化水素を発生させる原料ともなる、
約45キロもの硫黄のほか、猛毒のリシンを含有するトウゴマや抽出に使う薬品も見つかった。
複数の刃物もあったとされ、家宅捜索は数日に及んだ。
捜査関係者は「まるで実験室のようだった」と証言。
岡庭容疑者は当時取り調べに素直に応じたといい、「論理的で頭が良い」と関係者は感じていた。
このときすでに境町一家殺傷事件への関与が噂されていたという。
岡庭容疑者は、高校生だった平成23年11月、埼玉県三郷市で中学3年生の女子生徒が、
刃物で切りつけられて大けがをした事件と、そのおよそ2週間後、
2キロ余り離れた千葉県松戸市で小学2年生の女の子が刃物で切りつけられて大けがをした事件に、
関与したとして逮捕され、その後、殺人未遂などの罪で起訴された。
松戸の事件では、岡庭容疑者は逃げた女児が転んだところに包丁を振り下ろした。
包丁は厚手のジャンパーを貫通し、傷の一部は肺に達するほど深いものだった。
その後の捜査で、岡庭容疑者の自宅からは20本以上の刃物が見つかっている。
裁判で検察は「映画などで女性が死ぬ場面を見て性的快楽を得ていた」などと主張。
懲役5年から10年を求刑。
一方、弁護士は「事件はさまざまな要因が重なって起きた」として、
医療少年院で治療を受けながら更生させるべきだと主張。
裁判所は「犯行は凶悪で刑事処分を選択するほかないようにも思われるが、
医療少年院で治療を行うことが再犯防止の最良の手段だ」と判断。
精神鑑定の結果を踏まえて、医療少年院への送致を決定した。
しかし、それから6年半後、再び惨劇が起きてしまった。
現場の住宅は、林に囲まれ街灯も少なく夜は暗い場所で、
地元の人や、住宅の前にある釣堀の客以外はめったに訪れないほか、
室内に物色されたような跡もなかった。
このため警察は当初、家族に強い殺意を持っていて、
土地勘のある人物が関わった疑いがあるとみて捜査を進めてきたが、
家族の周辺で具体的なトラブルは確認されていなかった。
その後、けがをした子どもたちの証言などを分析するとともに、
過去に事件を起こしたことがある人物について捜査を進めていた。
その結果、現場からおよそ30キロ離れた埼玉県三郷市に住む岡庭容疑者が、
境町の事件に関与している疑いがあることが分かったという。
事件の発生から1年7か月余り。
容疑者が逮捕されたことについて、近くの住民たちからは安どの声が聞かれた。
近所の人や同級生によると、殺害された小林光則さんと美和さんは10年ほど前に、
埼玉県内から美和さんの実家の住宅に戻り、家族で暮らしていた。
地域の清掃活動や地元の祭りなどにもよく顔を出していたという。
岡庭容疑者は中学校の卒業アルバムの自己紹介ページにこう書いていた。
「将来の夢=大学進学 好きな言葉=ないです 尊敬する人=ないです
クラスへの一言=よろしくお願いいたします」
無機質な書き込みだ。
中学時代の同級生は岡庭容疑者について、
「成績も悪いわけではなく、運動もソコソコ。いじめられているわけではなく、
空気のように目立たないヤツで、あんまり覚えていない」と話す。
岡庭容疑者は11年11月、少女殺傷事件を起こす直前に、
通っていた千葉県内の私立高校を「自主退学」している。
それは”猫の生首事件”が原因だったと高校の同級生が証言。
「アイツが学校の教室に猫の生首を持ってきたんですよ。
教室に人だかりができて、学校中で話題になりましたね。
腐ったような変な匂いが充満していたことを覚えています。
そんな中で、アイツは何事もなかったように机で寝ていた。
生首を持ってきた理由は、友だちに猫の生首の写真を見せたら、
『持ってきて』と言われたからだと聞きました。ナイフを持ってきたこともあったらしいです」
後日、教師が猫の生首を持ってきたことを岡庭容疑者に質した。
すると岡庭容疑者は事実を否定する一方で、退学を申し出たのだという。
岡庭容疑者の自宅は三郷市内の駅からバスで10分ほどの閑静な住宅街にある。
「岡庭容疑者の実家は、祖父宅の庭に建てられたものです。両親、弟と4人暮らし。
祖父は近所でも有名な地主。しかし、11年の事件の後、自宅に隣接していた所有する土地を売却。
被害者への補償のためとのうわさもある。
近所の住人は、「ここ数年は(岡庭容疑者の)両親の姿をまったく見ていない」と話す。
警察関係者によれば、岡庭容疑者と境町の小林光則さん一家に、
事件以前の接点は確認できていない。
岡庭容疑者は運転免許証を持っておらず、普段は徒歩や自転車で移動することが多かったという。
精神障害者の猟奇殺人は、なぜ起きたのか、その接点は。まさに怪奇だ。