3月5日
今日はほとんど砲撃がなかった。
息子のセウェリン(8)は地下のシェルターに逃げ込むことなく、
落ち着いて、自分の部屋でアニメを見ていた。
私の2人の親友は、子供たちを連れてキエフから西部のリビウに避難できた。
これで彼女たちのことを心配しなくていいから、安心だ。
先日書いた友人の母親は避難列車でハリコフを離れることができたそうだ。
線路が爆破され、危険な場所が多いので、平時の3倍くらい時間がかかる。
彼女は寒空の下、6時間もホームで列車を待っていた。
車内はラッシュアワーのように混んでいて、12~16時間くらい立ったまま乗らなければならない。
大人はもちろん、子供もお年寄りも席が足りなくて立たなければならない。
避難民はみんな、とても疲れていて、足が痛いそうだ。
車内に入りきらないので、荷物もほとんど持っていけない。
悪いニュースも入ってきた。マリウポリから民間人を退去させることでロシアと合意したはずなのに、
激しい砲撃を受け、街にはインフラがまったくない。
食料、医薬品、水、電気、暖房がなく、住民は地下に座り込んでいる。
避難民が集まる場所にもミサイルが発射され、かなりひどい状況だ。住民は避難できなかった。
キエフ州当局とボランティアは、キエフ郊外のイルピンやブチャにいる住民の避難を支援しようとしている。
近くのボロディヤンカに住んでいる友達は電気がないため、
近隣住民と一緒に一つの民家で共同生活をすることになった。
車のガソリンタンクを空にして、発電機を満タンにしたそうだ。
一つの家を暖め、照らすために。
わが国は今、大きな「蟻塚(ありづか)」のような状態だ。
一見無秩序だが、全員が共通の課題に向けて邁進(まいしん)している。
「マイダン」(注・2014年の親露派政権に対する民主化運動)のときもそうだった。
当局ができないことはボランティアがやる。
ペットを残して避難した飼い主からの依頼で、アパートのドアに穴を開け、
その穴から餌や水を与えるボランティアチームも存在する。
私は今日、野良ネコに餌やりに行ったが、砲撃を恐れて隠れてしまう。
うちの飼い犬も、爆音が聞こえるといつも、テーブルの下に隠れている。
3月7日
「息子を連れて安全な場所に行くべきだ」と、一日中言われている。
キエフの外にはロシア軍の装甲車が長い列をなし、キエフを襲撃するために力を集めている。
北西ではロシア軍が住居を荒らし、食料を運ぶボランティアや避難民を殺害している。
ロシア軍が制圧した地域には動物保護施設もある。とっくに食料が尽き、何百匹もの動物が餓死している。
私は子供の安全に責任がある。息子のセウェリン(8)は自分のことをまだ自分でできないから、
私が面倒を見なければならない。しかし(息子と避難することは)家族を置いていくことを意味する。
親は行きたがらないし、夫は行けない。
キエフは自衛の準備を進めている。インフラはすべて動く。店や薬局は開いているし、食料も買える。
シジュウカラに与えるヒマワリの種も、5キロ買うことができた。
こんな大きな袋なら、暖かい季節まで持ちこたえることができそうだ。もちろん、それまで生きられる場合。
街の高級レストランはフィールドキッチンとして再利用され、
軍隊や病院、民間人に提供するための料理をつくっている。
高級服のデザイナーはキャットウオーク(ランウェイ)用のドレスではなく、
軍用のボディアーマーや防寒下着を縫っている。
きょうはミコライフの動物園が砲撃されたが、幸いにも砲弾は爆発せず、
ホッキョクグマの囲い近くの地面に命中した。クマは生きているそうだ。
子供を連れてキエフを離れるかどうか、一晩で決めなければならない。
今までで一番難しい決断。
ウクライナの首都キエフの中心部で暮らす自営業の高垣典哉さん(56)。
ウクライナ人の妻と息子2人(7歳・2歳)がいて、今も街に残り、YouTubeで情報を発信している。
(現地時間3月5日)
「きょうロシアが9時から攻撃をしないので、『もし逃げたい人がいたら逃げろ』と警告してきました。
ずっと危険な状態ですね」
各家庭ではロシア軍の攻撃から身を守るため、扉に柵をして侵入を防いでいます。
物資不足は深刻です。
スーパーには食料品が並ばず、高垣さんは毎日、購入できたクラッカーやチーズを食べているといいます。
「肉を買おうと思ったんですよ。通常1000円くらいなんですよ、ステーキのパックになったもの。
1万2000円くらいになっていました。毎日(クラッカーなどの)食事やから、ものすごくストレスたまりますね」
「逃げていく人がかなり増えた」「電気・インターネット・水は通じる」
3月7日、
おとといは『9時以降は逃げなさい』という警告がロシアから来たんですよ。
それでまたキエフの人もあわてて逃げ出しましたね、残っていた人もね。
あとは隠れているんですよ、みんな。地下とかシェルターに」
「私の妻も動かないんですよ。父親が寝たきりですので、動かないんです。
僕は逃げてほしいんですけど、逃げないんですよ」
「残っている人は、やっぱりおじいさん・おばあさんや父親が高齢でという人とか、
それで逃げない決断をしているんです」
「僕から言わしたら、難民になった人は成功者です」
「暖房とかもまだ動いていますし、電気・インターネット・水は通じています。
だから僕今シャワーを浴びてきたんですけどね。これらは普通に動いています。
近くのヒーターポンプが攻撃されたというので、寒くなるかもしれんなと思っていたんですけど、
普通に動いていますね」
「岸田文雄首相がウクライナ人を受け入れるということを言われたんですけど、
4・5日前に、早く決めてもらいたいんですよ。一刻一刻を争う状態で猶予がないんですよ。
早く決めて助けてやってもらいたいんです、ウクライナ人を」
「相手は嘘をついたり約束を破ったりする人たちですので、みんなそれで逃げようとするんですけど、
それによって逆に被害を受けたりするようなことがあるので、
早くアメリカ軍やNATOが助けてあげてほしいですよね、ウクライナの人を」