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日本の仏教の世界にも浸透工作を仕掛ける中国。

12月15日に 『戦狼中国の対日工作』 (文春新書)を刊行する安田峰俊氏が、実態に迫った。

(抜粋)

黄檗宗」という仏教宗派。

信者数こそ約7.3万人とすくないものの、日本の伝統仏教十三宗の一角を占めており、数百万人以上の信者を抱える大宗派とも対等の権威と社会的信用を持つ。

同じ禅宗の大宗派である臨済宗曹洞宗とは、法統の上でも親類関係にあり関係が良好。

萬福寺は宇治でも有数のパワースポットとして観光地になっており、いまや名実ともに「日本の禅寺」である。

だが、習近平政権が軌道に乗った2010年代後半以降、大きく風向きが変わっている。

中国共産党の各種のインテリジェンス機関や外交機関から、宗門に対する大規模な浸透工作が開始されたのだ。

そうした工作活動の「成果」は、宇治にある黄檗宗大本山萬福寺の様子を見れば一目瞭然である。



11月24日夕方、境内に足を踏み入れて圧倒された──。開山から360年あまりを経た名刹(めいさつ)の佇まいにはあまりにそぐわない、チープでシュールな光景が広がっていたからだ。

 このとき、萬福寺で開催されていたのが「黄檗ランタンフェスティバル」(期間:10月8日~12月10日)という日中交流イベントである。境内にランタンが設置され、それが夜間に輝く。

このイベントの主催は萬福寺のほか、日中文旅株式会社という中国系企業。さらに協賛は黄檗文化促進会と日本福建経済文化促進会という中国人組織(ともに後述)で、

後援には中国駐大阪総領事館が名を連ねている。イベントは昨年から、こうした中国側の諸団体が大きくバックアップする形で定例行事化した。

間の萬福寺(拝観料は大人500円)では寺院側の職員がモギリをおこなっているのだが、

夜になると「バイトで雇われた」と話す中国人スタッフたち十数人が境内を仕切りはじめ、

チケット販売や出店の準備を開始する。入場チケットは大人1500円(事前割引あり)だ。



このイベントのチープさは、写真や動画を一見しただけでも伝わるだろう。

問題は中国側のどのような人たちが、いかなる動機でイベントを仕掛けているかである。

結論から言えば、黄檗ランタンフェスティバルには中国共産党のインテリジェンス機関である統一戦線工作部(統戦部)が関係している可能性が非常に高い。

統戦工作とは、中国共産党が国内外における親中国的な潜在的要素を持つ勢力に「交流」を働きかけ、

党の認識を刷り込んだり、中国の国益に見合う言動をとるよう仕向けたりする政治工作のことだ。

言うまでもなく、中国において、宗教的な要素を持つ「民間団体」が当局に迅速に認可されることは通常ほとんどない。
例外は、団体の設立それ自体が、統戦工作などの当局の意向にもとづいている場合だけだ。

事実、日本国内の中国語紙『中文導報』WEB版や日本福建経済文化促進会の中国語公式ホームページの記事によると、

林文清は2016年9月1日、中国共産党福清市委員会の統一戦線工作部長・陳存楓や、

日本福建経済文化促進会の会長らをともなって萬福寺を訪問し、黄檗宗管長の近藤博道氏と座談会をおこなっている。

また、福清黄檗文化促進会が中国のポータルサイト『捜狐』に2019年10月4日付けで配信した記事からは、

林文清は同年9月27日、党中央統戦部の招待を受ける形で、北京で行われた建国70周年の記念活動に参加したことが確認できる。

「薛剣さんについても、ネットで炎上したことがあるという話を小耳には挟んだが、ご本人は礼儀正しい感じの良い人。寺に来たときは、やはり『熱心な信者』のように見えた」

黄檗宗側に電話で事情を問い合わせると、僧侶の一人は困惑してそう話した。



多くの仏教徒が敬意を払う、チベット仏教の精神的指導者のダライ・ラマ14世について、薛剣が「詐欺師」などと非難していることもまったく知らなかったという。

ランタンフェスティバルの開催それ自体は、当初は宇治市などの行政側の打診によるものだったそうだが、

中国側がランタンの提供を申し出たため、それを受け入れたのだという。

伝統仏教宗派のなかでも信頼度が高い黄檗宗と友好的な関係を結ぶことで、他の大宗派からも信用されてしまうという、意外な影響力も持っている。

事実、中国新聞網などの中国側の公開情報によると、林文清が率いる訪問団は2021年以降、曹洞宗大本山總持寺、同宗の系列校である駒澤大学禅研究所、

浄土宗の宗務庁と大本山増上寺、さらに臨済宗各派の主要寺院や新宗教立正佼成会などを相次いで訪問していることが確認できる。

これらの宗派について、中国側から具体的な工作がすでに開始されているのかは不明なものが多い。

ただ、信者数が約602万人の浄土宗や363.6万人の曹洞宗といった大宗派が、今後において仮に中国共産党の強い影響下に置かれた場合、日本の社会にとって大きな危険が生じる可能性がある。