宮城県議会は7月5日、上下水道と工業用水の20年間の運営権を、
民間に売却する「みやぎ型管理運営方式」の関連議案を賛成多数で可決。
上水道を含めた3事業一括の民間委託は全国初で、県は2022年4月の事業開始を予定。
県は引き続き施設を所有し、水質管理や経営監視も行うとしている。
県はこの方式の採用により、20年間で水道事業にかかる経費を最大546億円削減できると試算。
しかし、水道事業運営権の売却に県民からの反対も根強い。
事業を受託したのは、メタウォーターのグループの特定目的会社。
名称は「株式会社みずむすびマネジメントみやぎ」で、メタウォーター社が議決権株式の51%を保有する。
一方、実際の運営とメンテナンスを行うのは、特定目的会社が出資し新設した、
新OM会社「株式会社みずむすびサービスみやぎ」。
しかし、今年6月、新OM会社の議決権株式の保有者が明らかになると宮城県は再び揺れた。
この会社は、フランスの大企業ヴェオリア傘下のヴェオリア・ジェネッツ社が、
議決権株式の51%を保有していることがわかった。
ちなみにヴェオリア・ジェネッツの親会社のヴェオリア社は、今年5月、スエズ社を買収。
売上高約370億ユーロの巨大企業が誕生している。
竹中平蔵議員(当時)は以下のように発言している。
「上下水道は、全国で数十兆円に上る老朽化した資産を抱えております。
フランスやイギリスなどヨーロッパでは民間による上下水道運営が割と普通になっており、
年間売り上げが数兆円に上るコンセッションや、しかも非常にダイナミックにIoTを取り入れて、
第4次産業革命と一体になって水道事業をやっていくというのが出てきている」
しかも、民間企業は国内、国外を問わない。
民間企業が事業を営む以上、採算、利益を重視することになり、
水道水の安全性が低下する危険性が懸念されるだけではなく、水道料金の上昇が予想される。
フランスでは、パリ市の水道事業が民営化され、1985年から2009年の間に水道料金は約3倍に跳ね上がった。
パリ市は水道料金の決め方が不透明などの理由で、2010年に水道事業を再公営化している。
米国のアトランタでは、水道を運営する民間企業がコストカットを徹底したために、
水道管の破裂や水質悪化が相次いだ。
横浜市ではこの7月から水道料金を平均で12%ほど値上げ。
埼玉・川口市では、すでに2021年1月から平均25%値上げしているなど、
各地の自治体で水道料金値上げの動きが広がっている。
コンセッションとは、公共サービスを民間開放することで経済成長をうながす新自由主義政策で、
新自由主義政策を主導してきたのは米国だ。
1995年にWTO(世界貿易機関)を設立し、経済自由主義に基づく国際経済秩序づくりが進められた。
その米国が態度を一変させている。
ジェイクサリバン米大統領補佐官は「何でも貿易の拡大に求めるような安易な発想を改めるべき。
例えば、安全保障の担当者たちは、TPPを、その中身を精査することもなく支持するという過ちを犯した。
自由貿易が互恵的であるという貿易理論の前提から疑うべき」と、新自由主義に疑問を呈した。
さらに、「安全保障の担当者たちは、インフラ、技術開発、教育など、
長期的な競争力を決定する分野への積極的な政府投資の必要性を認識すべき」としている。
導入から一定の年月が経過すると、次第に企業に丸投げになり、県は管理が難しくなる。
運営企業が業務にまずい点があっても、発注元は即座に業務停止を命令することはできない。
水道は生活必需品だからだ。
契約更新で、民間企業に有利な契約内容になる可能性もある。
日本は世界でも数少ない水に恵まれた国だ。
その上、水道水は直接飲めるほど安全性が高い。
だが、水に恵まれた日本でも、水道事業の危機が着実に迫っている。
それは、少子高齢化に端を発した人口減少による水道使用量の減少と、
法定耐用年数を超えた水道管の更新費用問題などによるものだ。
だからと言って、生活インフラである水道事業を、採算や利益を重視する民間運営とすることは、
本当に妥当な計画なのだろうか。採算に合わない、利益の出ない地域の水道事業は、
急激な料金の引き上げはもとより、サービスの停止すらあり得る。
お荷物になったから民間へという胆略的な発想は妥当なのか。
水道事業の運営は、生活インフラとして、国民の命が守られることが大前提となる。