政治・経済、疑問に思うこと!

より良い日本へ願いを込めて。

「RNA薬」初めて発見も抹殺された?

Nature Japan


1987年末、ソーク生物学研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の大学院生だったロバートマロン氏は、

メッセンジャーRNA(mRNA)鎖を脂肪滴と混ぜ合わせて「遺伝子ごちゃ混ぜ」スープを作り、

そこにヒト細胞を浸した。すると、細胞はmRNAを取り込み、それに基づいてタンパク質を産生し始めた。

自分の発見が医学にとって大きな可能性を秘めていることに気付いたマロン氏は、

このことをメモし、署名と日付を入れた。1988年1月11日のメモには、

細胞内にmRNAを送達し、細胞がこのmRNAからタンパク質を作ることができれば、

RNAを薬として扱う」ことが可能になるかもしれないと記されている。

研究所の他のメンバーも、後世に残すために彼のメモに署名をした。

マロン氏は同じ年の実験で、カエルの胚がそうしたmRNAを取り込むことを示した。

脂肪滴を利用してmRNAを生体内に取り込ませやすくしたのは、彼の研究が最初であった。




これらの実験は、歴史上最も重要で、最も大きな利益を上げることになる、

2つの「mRNAベースのワクチン」への足掛かりとなった。

この2つの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは、

2021年だけで全世界で500億ドル(約5兆5000億円)の売り上げが見込まれている。

しかし、成功への道のりは決して平坦ではなかった。

彼の実験からかなりの年月が経っても、mRNAは不安定で高価であり、

治療薬やワクチンとして利用することはできないだろうと考えられていた。

しかし、数十の学術研究機関や企業が適切な製法を見つけようと努力を重ねた。

今日のmRNAワクチンには、マロン氏の実験の後に発明された新技術が使われている。

しかし、「mRNAワクチンの発明者」を自称するマロン氏は、自分の貢献が十分に認められていないと考え、

自分は歴史から抹殺されたとNatureに語っている。

「彼らは私の頭脳から生まれた発明で金持ちになった」というのが、マロン氏の結論だ。



マロン氏は、ここ数カ月は、自分の研究が実現を後押ししたmRNAワクチンの安全性について、

公然と批判している。

その言い分によれば、ワクチン接種によって産生されたタンパク質は体の細胞を損傷する恐れがあり、

子どもや若者にとっては、ワクチン接種はメリットよりリスクの方が大きいという。

しかし、彼のこうした主張は、他の科学者や保健関係者によって繰り返し否定されている。



mRNAワクチン技術が誰の功績かを巡って激しい議論になっている理由の1つは、

莫大な富をもたらす特許権の帰属に関わるからだ。

しかし、基礎となる知的財産権の多くは、特許発行日から17年で消滅するため、

現在はパブリックドメインにある。

mRNA技術の開発に携わった人々の中にはマロン氏のように、

自分はもっと評価されるべきだと考えている人もいるが、他の研究者にも注目してほしいと言う人もいる。

「『これは自分の功績だ』などと主張することはできません」と謙遜する。

開発した脂質送達システムについても、何百人、何千人の協力があったからこそ実用化できたと言う。

「全ての人が、少しずつ何かを追加していったのです。私も含めて」と述べる。

多くの研究者が、これまでの歴史を振り返って、mRNAワクチンが人類の役に立っていること、

そしてその過程に自分が貢献したかもしれないことに純粋な喜びを感じていた。

「これを見られたことが、ぞくぞくするほどうれしいのです」

「当時考えていたことの全てが、今、実現しているのですから」