中国の「魔の手」は人材の獲得にも及んでいる。
米議会下院議長ナンシー・ペロシ氏と、台湾の蔡英文総統との会談が予定されていた8月3日の朝、
高雄新左営駅の大型デジタル電子看板に、簡体字で「老妖婆が台湾を訪れる」の文字が表示された。
「老妖婆」とは、残酷で無慈悲な老婆を指す言葉だ。
これは中国系ハッカーが大型スクリーン(デジタルサイネージ)を乗っ取り、台湾の一般市民に対して発したもの。
同様の乗っ取りは、南投県珠山郷役所の大型看板やセブン‐イレブンの店内モニターに対しても行われ、
「戦争屋ペロシ、台湾から出て行け」などと表示された。
朝の混雑する時間帯で、多くの人がセブン‐イレブンで朝食やコーヒーを買っていた。
突然店内の照明が切れ、真っ暗になった中に、電光掲示板に浮かび上がったメッセージを見て、
恐怖心を覚えた人もいたようだ。
デジタルサイネージは、2年前の時点で合計19の駅に設置されており、そのうち高雄新左営駅の1つだけが、
中国のカラーライト(Colorlight)社製ソフトウエアを使用していた。
残りの17駅のデジタルサイネージは、台湾製の製品やソフトを使用しており、
サイバーセキュリティ上の懸念はないとしている。
また、南港駅公園の駐車場のシステムがハッキングされ、そのシステムがファーウェイ製であったと、
市民がFacebookに投稿している。
このほか国立台湾大学や大統領官邸、外務省、国防省などのサイトが、
サイバー攻撃により書き換えられるという事態が発生した。
8月3日にペロシ米下院議長の訪台に抗議するとして、
ハッカー集団「APT27」がYouTubeに41秒間の動画をアップしている。
APT27は、10年以上前からサイバースパイ活動などを行っている中国のハッカー集団で、
他国の政府機関や、ハイテク、エネルギー、航空宇宙産業などが標的となっている。
中国共産党が公式に支援している、という疑いがあり、民間のハッカー集団を装った、
人民解放軍隷下のハッカー集団と見る向きもある。
APT27は別名「アイアンパンダ」「アイアンタイガー」「ラッキーマウス」「ブロンズユニオン」など、
さまざまな呼び名でも呼ばれている。
今年2月には、SockDetourと呼ばれるマルウエアを使用して、米国の防衛請負業者の侵入に成功している。
今回の攻撃では、APT27は、台湾国内の6万台ものインターネット接続デバイスをシャットダウンさせたと主張。
だが、いまのところ、重要インフラに目立った被害は出ていないようだ。
2020年、台湾行政院はデータ窃盗を防ぐために、台湾のすべての機関のすべての情報通信製品に、
中国製品を使用しないよう要求している。
しかし、華為技術(ファーウェイ)製ルータをいまだに使用していた台湾鉄道は、
その警告を深刻に受け止めておらず、今回の侵入につながったと非難されている。
中国製ソフトウエアやIT製品に、深刻な危機感を持っていなかったのは、台湾鉄道だけでなく、日本も同じだ。
政府の情報通信機器の調達に関する運用指針においても、
中国を名指しせず弱腰の姿勢である。
政府がこの調子だから、民間企業に危機感を持てと言うのも、無理がある。
国防権限法に基づいてファーウェイなどを名指しで排除した米国とは大違いである。
ただ単に中国イジメだけではないということを認識すべきだ。
ファーウェイは、近年、日本の研究者や技術者の獲得に熱心だ。
ファーウェイは自動車分野に力を入れており、特に車載パワー半導体に関する日本人技術者を大量に集めている。
その時が来て初めて気づく日本では遅い。
日本政府にはもっと危機感を持って、経済安全保障の重要性を理解すべきだ。
ひろゆきしが、中国の台湾侵略について問われ、戦争というよりも、
台湾内部を徐々に牛耳る作戦を長期に渡ってやるのではないかと述べたら、
金子恵美氏が笑って揶揄していたが、中国の実態を全く知らない所作だ。
日本の土地やビルなども中国企業の購入が進んでいる。それには自衛隊の直ぐ傍の土地もある。
あらゆる面で戦略的に日本を攻略してくる中国に対して、早め早めに手を打つ必要がある。
山崎 文明(情報安全保障研究所 首席研究員)参照。