こうして生まれた情報機関と特殊部隊の連携。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表 秋元千明氏。
まずは情報機関の連携だった。ロシアの情報機関の出先機関的存在だったウクライナの情報機関FSBは、
政権が倒れた後もロシアに人脈を持つ職員が多くいた。
欧米としてはロシア情報を引き出すために連携するメリットがあった。
戦術、戦略、情報戦などあらゆる西側の近代的手法を教え、軍備も与えて西側の軍事組織の一部に取り込みたかった。
西側の情報と戦い方を伝授されていたウクライナ。
その戦いによりロシアの計画は狂い、多くの兵士を失っていく中、
今回の秘密組織「コマンドーネットワーク」は5月に生まれた。
これまで明かされなかったコマンドーネットワークの役割は大きく分けて4つだ。
「軍事情報の提供」「兵器の分析」「武器輸送計画」「作戦の立案」。
まずは、「軍事情報の提供」
AWACSなどの哨戒機、無人偵察機、電子偵察機、偵察衛星などを使って収集したウクライナ国内でのロシアの情報が、
ドイツにあるコマンドーネットワークの本拠地に集約される。
これを精査した軍事情報がウクライナ国内の拠点などに送られ、そこから前線の将校が持つタブレットに送信される、
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表 秋元千明氏
「ウクライナは同盟国ではないので、送る情報と送れない情報はフィルターをかけている。
機密のガイドラインに沿って送れる情報を渡す。タブレットは下級将校まで持っている。
(中略)正規軍だけでなくパルチザンも情報は共有してます」
パルチザンによるゲリラ活動はこれまでも報道されてきたが、その裏にもコマンドーネットワークの支援があったのだ。
そして「兵器の分析」。
例えば3月、ロシア軍は電子戦兵器『クラスハ4』をキーウ周辺に放棄して撤退した。
これを分析したところ、とんでもなく有益な戦利品だった。
「この中にどのくらいのソフトウエアが入っていたかというと、戦闘機10機と交換してもいいような情報が入っていた。
一番重要なのは、電子妨害といって電波を妨害する機能がある。
GPS,AWACSのレーダー、地上のレーダー、携帯電話、すべての電波を(半径300キロ)妨害する能力を持ってる。」
電波を妨害するためには敵の電子機器の周波数を分析できないといけない。
つまりこれを押さえたことでロシアの電子技術がどのくらいなのか把握できるという。
同時にどんな妨害技術を使っているのかもわかる。結果として対抗措置がとれる。
さらに、ロシアの暗号技術も掌握したという。最終的にはロシアのデータ通信のすべてに入り込むことも可能だ。
「太平洋戦争の時、アリューシャン列島でゼロ戦がアメリカに捕獲されたことがあります。
これによって日本の航空技術がアメリカに流れた、それと似たような事例です。
何しろ『クラスハ4』はロシアにまだ10基しかない。どんなものかわからないけど警戒していた兵器」
「武器の輸出は20か国ぐらいが既にやってるんですが、すべてドイツ・シュツットガルトにあるアメリカの在欧米軍司令部が全部管理してます。
そこがマネージメントをして秘密の輸送計画を立てている。どういうルートかは知りませんけど、
その中心にいるのがコマンドーネットワークです。鉄道ルートが多いと聞いてますけど」
そしてもうひとつ重要なのが「作戦の立案」だ。
クリミア橋の爆破も、黒海艦隊の巡洋艦『モスクワ』撃沈もコマンドーネットワークによる立案といわれている。
南部ヘルソン市と東部のハリキウ州やリマンの奪還も、“相互陽動作戦”として、
コマンドーネットワークが立案した戦法だったというが驚いたのはこの作戦はすでに5月にたてられていたという。
情報を集めて分析し、前線に流し、武器を供与して作戦を立てる。
これはもう支援というより、ロシア対コマンドーネットワークの戦争、
即ち、アメリカ、イギリスをはじめNATO諸国の戦争に他ならない。
秋元千明氏
「クリミアの奪還まで進むのかどうかと言うと、それが基本的にウクライナの希望ですし、
西側に強く反対している国もなく、イギリスはそれを強く求めています。私が接している情報では、間違いなく…
いや間違いなくと言うと言い過ぎですが、たぶんクリミア奪還に行く、そういう計画が策定されると思います」