米国の著名な調査報道記者、シーモア・ハーシュ氏が10日、北極海の天然ガス・パイプライン、
ノルドストリーム爆破事件について「米国の仕業だった」という暴露記事を発表。
事実なら、米国はウクライナ戦争の舞台裏で大胆な軍事作戦を実行していたことになる。
ハーシュ氏は自身のブログに「爆発はドイツのロシア依存を食い止めるために、バイデン大統領の指示で実行された」という。
この記事が無視できないのは、ハーシュ氏が世界的に知られた調査報道記者だからだ。
同氏は1969年、ベトナム戦争で起きた米軍中尉による「ソンミ村虐殺事件」のスクープでピューリッツァー賞を受賞。
イラク戦争中の2004年に起きた「アブグレイブ刑務所における捕虜虐待事件」など、数々の国際的スクープを放ってきた。
〈ロシアによるウクライナ侵略まで3週間を切った2月7日、バイデン大統領はホワイトハウスで、ドイツのオラフ・ショルツ大統領と会った
記者会見で、大統領は「ロシアが侵攻すれば、ノルドストリーム2はない。我々が、それを終わらせる」〉
記者に「どうやって、終わらせるのか」と問われた大統領は「貴方に約束しよう。我々には、それができるのだ」と断言。
ドイツは天然ガスの安定供給に期待する一方、米国や中東欧諸国は、
「欧州のロシア依存を強める」「既存のパイプラインの価値が下がる。安全保障上も戦略的に不安定になる」などと、強く反対していた。
ロシアによるウクライナ侵略戦争が始まった後の2022年9月26日、
バルト海に面したデンマーク領のボーンホルム島沖でパイプラインが爆発し、4本のうち3本が損傷。
当時から、何者かによる破壊工作が指摘されていた。
〈ノルドストリームの破壊は、もし米国にできるなら「ノルウェーが欧州に自国の天然ガスを大量に販売できるようになる」という話だった。〉
〈2022年9月26日、ノルウェー海軍のP8偵察機が、いつものルートを飛ぶようにみせかけて、ソノブイを投下した。
信号は水面下に広がって、まずノルドストリーム2に、次にノルドストリーム1に届いた。
それから数時間後、高性能のC4爆弾が起動し、4本のパイプラインのうち3本が使用不能になった。
数分後、壊れたパイプラインに残っていたメタンガスが水面に広がり、世界は「何か取り返しのつかないことが起きた」と知ったのだ〉
記事が発表されると、ホワイトハウスの国家安全保障会議の報道官は、
ロシアのタス通信に対して「記事は完全な誤りで、まったくの創作」と否定。
ロシア外務省の報道官はテレグラムに「米国はすべての事実についてコメントしなければならない」と投稿。
一方、中国共産党系の新聞、グローバル・タイムズも2月10日付の社説で、
「ワシントンはノルドストリームの爆発について、世界に説明する責任がある」と指摘。
中国はスパイ気球問題の仕返しとばかり、ノルドストリーム問題を追及する姿勢だ。
米国の主要メディアは2月12日時点で、ほぼ黙殺している。
ロイター通信がホワイトハウスの否定談話を中心にして、短く紹介したくらい。
ロシアはノルドストリーム問題を国連安全保障理事会に持ち出す姿勢で、いつまでも、沈黙はできないだろう。
ロイターは2022年3月1日、ノルドストリーム2の事業主体の企業が破産手続きの検討に入ったと報じた。
ロシアがウクライナ東部の親ロ派武装勢力の支配地域を独立国家として承認したことを受け、
ドイツが認可しない方針を表明。米国も金融制裁を発表していた。
パイプラインの稼働のメドが立たなくなっていた。
また、ガス漏れが検知される直前の数日にわたり、
AIS(自動船舶識別装置)のデータをオフにした2隻の大型船が現場周辺に出現していたことが、
『WIRED』による分析で明らかになっている。
衛星データモニタリング企業であるSpaceKnowの分析によると、2隻の「正体不明の船」はそれぞれ全長95m〜130mで、
ノルドストリーム2でガス漏れが発生した箇所から数マイル(約5〜8km)以内を通過していたとという。
大型船はAISを取り付けて使用することが、国際法により義務づけられている。
‘@あり得ないことでは無いが、停止し破産状態にあったノルドストリーム2を、危険を冒してまでわざわざ破壊する必要があったのか。
ノルウェーにも破壊のメリットはない。
「ノルドストリーム」のガス漏れについて、欧州各国は破壊工作によるものだと見て警戒を強め、
他のエネルギー供給システムの安全を確保するため、軍を送るなどの対応に乗り出した。
米戦略国際問題研究所(CSIS)は「最も差し迫った懸念は、輸送を開始したばかりの『バルチック・パイプ』を含む、
ノルウェーと欧州を結ぶパイプラインの安全確保になるだろう」との見方を示した。
欧州がエネルギー危機を乗り切る上で、ノルウェーの重要性は高まっている。
同国は生産を拡大して欧州に対する最大のガス供給国になり、欧州需要の約30%を賄うまでになったと、
エネルギー調査会社のライスタッド・エナジーのアナリスト陣は説明。
ノルウェーの石油、ガス、水力発電の大半は沖合で生産され、海底パイプライン・ケーブル網を通じて欧州に送られている。
ノルウェーは90を超える沖合油田・ガス田に加え、全長9000キロに及ぶガスパイプライン網を守るため、軍を派遣した。
特に重要なのは、ノルウェーとポーランドを結ぶ新たなガスパイプライン「バルチック・パイプ」で、
デンマーク、ポーランド市場と近隣諸国に輸送を開始している。
このパイプラインも、デンマーク沖の島の近くでノルドストリームと交差している。
ポーランド当局はバルチック・パイプの海底部分を監視。
デンマークエネルギー当局は、全ての電力・ガスインフラの保全を強化するよう指令を出した。
ウクライナが、ロシアによる電力網へのハッカー攻撃の試みを阻止したと発表したが、過去には同攻撃により停電が起こったことがある。
米国でも昨年、サイバー攻撃でパイプラインが5日間停止した。
米国は欧州に対する最大のLNG輸出国であり、その供給の安定確保は必須。