五輪開催を強烈に推進していた、アーチェリーメダリストで組織委顧問の山本博氏(58)。
開催ありきではなく、意外と?まともなことを述べているので、少々驚いた。
だとすれば、早い段階で2年延期を訴えてほしかった。‘@
無観客自体は仕方ないと思います。仮に有観客だとすれば、極めて大きな人流が起きたでしょう。
例えば午後9時半に試合が終わって、都内近隣に住んでいる人ならば大半は直帰するでしょうが、
地方から来たお客さんは、「晩ご飯を食べてからホテルに帰ろう」などとなるわけです。
営業時間の短縮や酒類の提供禁止などのルールを守らない飲食店も少なくない。
もし、そこで新型コロナウイルスに感染し、地元に帰ったら……。
このコロナ禍で苦労している人もたくさんいるし、身内を失った人もいる。
むしろ、もっと早く無観客の決断に踏み切れなかったのでしょうか、と思います。
さまざまな競技場で仮設スタンドを建設しましたよね。あれだって、もっと早く無観客が決まっていれば、
その分のお金も浮いたはずではと。組織委員会の皆が現場で大変に動いていることはもちろん分かっています。
でも、予定というのはこんなにも変えられないものなんですかね?
首都高の1000円割り増しにしてもそうです。おかげで幹線道路は大渋滞ですよ。
ただでさえ無観客の上に、観光客による人流もない。五輪期間中、高速道路が混むとはあまり思えません。
選手の移送についても、優先レーンをつくってパトカーなどを先導させれば何の問題もありません。
僕が過去、出場した五輪ではそうだった。なぜ臨機応変な対応ができないのかとは思ってしまいます。
総額900億円といわれたチケット代もそうです。これはもともとIOCには入らないお金なのです。
国が負担しようが東京都の負担となろうが、最終的に国民の税金で補填されるわけですから。
運営に関してはどこか釈然としない大会になっているのも事実です。
勘違いしてほしくありませんが、僕は五輪反対派ではありません。
ただ、本当の意味で、参加した選手が安全に有意義にプレーできる環境を提供すべきだと思っています。
その意味で東京五輪は1年ではなく2年延期すべきだったと思っています。
開催が来年だったら、有観客で開催できたはず。
今回もそうですが、とにかく五輪は開催国の負担が大きく、しかもお金も凄くかかる。
76年に夏季五輪を開催したモントリオール(カナダ)は約1兆円の負債を抱えた。
僕が銀メダルを獲得した2004年のアテネの赤字は、その後のギリシャ危機の発端になったといわれているほどです。
役員の人数削減や滞在時間の短縮などもIOCは検討すべきでしょう。
それだけ経費の削減にもなりますから。
選手村の不満は言う方がおかしいと思います。選手村のテレビや冷蔵庫はあくまでオプション。
必要ならば事前申請をしておくべきです。それを知らない一部の選手が、
SNSなどで発信して大ごとになってしまった。ただし、組織委員会の橋本会長がそんな不満に対し、
「できる限りの対応をする」と言ってしまったのはどうかと思いました。
それを許してしまったら、すでにお金を払ってオプションを購入した競技団体はどうするのか。
――そもそも橋本会長はそうしたルールを知っていたかどうか……。
僕ら貧乏な競技団体は、監督がいる棟にしかテレビや冷蔵庫はありませんでしたよ。
ある大会では女子選手がわざわざ男子のところに冷蔵庫を借りに来たこともあった。
そもそも、1万1000人全員のために備品を調えたら大変ですよ。
僕の経験ですが、五輪では軍隊からのレンタルが多かったですね。
例えばアテネ五輪ではギリシャ軍のマークが入った毛布で寝ましたよ。
大会が終わったら再び軍に返却する。各国、工夫しているんです。
それをいちいち全部新しく作ったり買っていたら、大会後はどうするのか。
中古屋に売るのか、ということになってしまう。
だからこそ、東京都や政府はそうした実情をきちんと説明する形がよいと思います。
やはり税金を使っている以上、国民には説明してしかるべきでしょう。
にもかかわらず、中途半端なことしか言わないから政府や東京都が悪者になってしまっている。
(そこのところは)
選手村の感染状況も人数以外は非公表なのもおかしいと思います。
選手村近隣に住む人のためにも、その情報は公開すべきです。
ボランティアの皆さんなどいろいろな方々のおかげで現在も五輪が開催されており、
もちろん選手含め皆が良かったと感じる大会で終了してほしい。
ただ、国内で頑張る医療従事者など感染拡大の中で動かれている方々も大勢います。
可能な限り情報開示があり、皆に納得される運営を望みます。
(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ)