汚され、壊され、暴言も…マナーが悪すぎて。
住職が苦渋の決断「数十年悩まされました」
兵庫県西宮市、六甲山の麓にある高野山真言宗鷲林(じゅうりん)寺の境内で、
21日、市の都市景観賞を受賞した美しい外観の参拝者用トイレの撤去工事が始まった。
同寺は平安時代、833(天長10)年に建立。
藤原栄善住職(62)は今から40年前の22歳のとき、先代からお寺を引き継いだ。
その当時から悩まされていたのは、境内のトイレを使うハイカーたちのマナーの悪さだという。
境内のトイレは本来、参拝者用に用意していたものだが、9割はハイカーが利用するという。
あるハイキングガイドには、同寺のトイレについて、登山コースにある最後のトイレスポットと紹介され、
「トイレはここで済ませておきましょう」と利用を促すアドバイスが書かれている。
「ハイカー全員ではなく、ごくごく一部の方ですが、トイレを汚しても拭き取らず、そのままの状態で立ち去られます。
山歩きの途中に便意を催し、必死になって歩いて来られ、間に合わずに、
便器の周辺まで汚してしまったという様子です。飛び散った汚れをそのままにするのは男女問わずです」
このトイレは、2007年に檀家の高齢女性からの高額な寄付で建てられたもの。
「それまではずっと水洗ではない、昔ながらのトイレでした。古いトイレとはいえ、お寺には参拝しない、
見ず知らずのハイカーの人たちに汚されることに、檀家さんであるおばあちゃんは心を痛めておられました。
それできれいなトイレを寄進しますと申し出てくださいました。『トイレを新しくしたら、汚くはしないでしょう』と。
弘法大師の言葉を短冊に書き入れ、トイレの壁面に飾り、『布教もできるトイレ』として完成しました」
と、藤原住職は経緯を説明。
しかし「一部の人によるマナーの悪さは変わりませんでした。誰が残したものか分からない汚れを、
お寺で一生懸命掃除をしましたが、人員も限られています。ずっとトイレ掃除ばかりもできません。
たまたま汚された直後に利用した人が『トイレが汚い』とSNSに投稿したのを見た時は残念な気持ちになりました」
一部のハイカーによる常識のない行動はこれだけにとどまらず、手洗い場の水道の栓を壊されたり、
トイレットペーパーを持ち去られたりしたことも。
「『トイレットペーパーがないじゃないか!』と怒鳴られたこともあります」
さらには、法会中の本堂や鐘つき場に腰掛けて、平気でお弁当を広げる人まで出てくる始末。
「先代の住職夫妻は、こんな山の中に人が来てくれることがうれしい、お寺に関係のない人でもありがたい、
とずっと言っていました。私も人が喜んでくれて、山のきれいな空気を吸って、気持ちよく帰ってもらうことが願いでした。
しかし、長きに渡りきれいにお使いいただくよう勧告してきましたが、全く改善されませんでした」
とうとう手に負えなくなり、今年の夏に撤去を決意。
「残念で仕方ないです。有料化や市へ管理をお願いすることも考えましたが、トイレ自体を廃止することに至りました。
檀家さんや信者さんのために用意していたトイレですが、今後はお墓参りの時も使えなくなってしまいました」
と、無念な気持ちを吐露した。
寄付をした高齢女性は2年前に亡くなったが、「人の心を信じてたけれど、残念やな」と無念そうだった述べた。
寄付された施設は今後、トイレの設備を撤去後に改築工事を行い、
瞑想室や滝行のための脱衣所として利用される予定だという。
(金井 かおる)
‘@西宮市のホームページには受賞理由について、
「寺院境内の一隅に建つこの建物は、小規模ながら和と洋のデザイン要素を巧みに取り入れて、
静かで落ち着いた雰囲気を醸し出し、境内や周囲の山々の緑ともよく調和しています。
また、参詣者だけでなくハイカーなど一般の人々にも利用できるよう配慮されています」と説明がある。
市もハイカーが利用できるとお墨付きを与えている。
だとしたら、市の方でもなんとか対処できなかったのかと悔やまれる。
富士山やバーベキューなどもそうだが、平気でごみをポイ捨てする人が後を絶たない。
結局一部のマナーの悪い人のせいで、このトイレ同様バーベキュー場も閉鎖になり、
真面目に利用していた人が使用できない羽目になる。