ー2018年1月1日の「BS朝日 新春討論 5時間スペシャル」では、
当時の安倍政権を「史上最悪の政権」と批判するジャーナリストの青木理氏に対して、小松さんは対案の提示を促しました。
青木氏が「僕はジャーナリストであり、対案を出す立場ではない」と返すと、
小松さんは「対案がないと説得力が伴わない」と重ねました。
このときはどのような思いだったのですか。
小松:青木さんは安倍政権に対して非常に批判的な姿勢をとられていますが、
当然ながらそのスタンス自体は尊重しなければなりません。
どんな政権でも負の側面は少なからず存在するし、
取材に基づいて権力に切り込む青木さんの姿はリスペクトしています。
ただ、「史上最悪の政権」とまで言うのであれば、何を基準にそう判断しているのかを聞きたかった。
‘@確か青木氏は、モリカケ問題や公文書問題、新型コロナ対応などで問題提起しているはずだ。
小松:政治に限らず人が物事を判断するときは、自らが好ましいとする理念があるからこそ、
それに該当しないものを悪いと捉えるでしょう。
ならば青木さんにとって、安倍政権に代わる理想の政権とは何なのか、望ましい総理は誰なのか、
といった疑問が視聴者には生じるはずです。
一方で、私が申し上げた「対案」という言葉を批判する向きがあるのも承知しています。
ジャーナリストは現状を分析して不足している点を指摘する存在であって、
対案を示す必要はないとの考えです。
‘@対案が無ければ批判してはいけないというのは無謀だ。
だとすれば、ほとんどのジャーナリスト、コメンテーターや専門家は政権批判できないこととなる。
これは危険な考えだ。
料理評論家に批判するならお前が作ってみろ。
絵画の批評家に批判するならお前が画け。
小説の批評家に批判するならお前が書け。
小松:番組で青木さんは、反骨のジャーナリスト桐生悠々の、
「蟋蟀(こおろぎ)は鳴き続けたり嵐の夜」との句を取り上げ、
「鳴き続けるのがわれわれの仕事だ」と反論されました。
そこまで仰るのであれば、加えて青木さんの理想とする政治や社会は何なのかを知りたかったですね。
‘@そんなもの、数分でしゃべれるわけがないし、正当な答えなどない。
だから、世界中で右往左往しているのだ。
そもそも、理想の政治や社会を論議するコーナーでもない。
こじつけもいいところだ。
ー同番組でジャーナリストの長谷川幸洋氏は、
「政権を批判するのがジャーナリストの仕事だと定義するならば、
いつまでもアンチ政権ということになる。
私のジャーナリストの定義はまったく違う」と、青木氏とは異なる考えを示しました。
小松:権力の監視は間違いなくジャーナリズムの役割の一つではあるけれど、
それ自体が目的になっていてよいのか。
個別の政策や政治理念に基づいて是々非々で判断するべきでしょう。
民主主義国家の日本において正当な手続きで選ばれた政権である限り、
その存在を頭ごなしに否定することは、国民の負託を蔑ろにしているとも言えます。
‘@逆に言えば、安倍総理を批判する青木氏を頭ごなしに否定することは、
安倍総理に反対の国民の負託を蔑ろにしているとも言える。
ジャーナリストが権力の監視をするのは大きな役割だ。
それが、今はテレビなどでは、全然体をなしていない。
猛省して、現実に起きている事、真実を伝えるべきだ。
―新型コロナ禍に直面して以降、世の中にはさまざまな情報が溢れています。
メディアが不安を煽っている面もあると指摘されますが、
報道に携わるなかで感じていることはありますか。
小松:あくまで個人的な見解であることを断ったうえで申し上げると、
新型コロナの感染拡大による危険性をマスメディアが強調しすぎた面は否めません。
今年5月下旬に緊急事態宣言が解除された以降も、
各局は日々の感染者数や感染拡大のリスクを連日報じていました。
しかし私は、もう少し抑制的に伝えてもよかったと思います。
報道を観て不安を抱いた方が、半ばパニックに陥った状態で病院に訪れることがあったと言います。
それで医療現場が逼迫してしまえば、本当に緊急の手当てが必要な、
新型コロナの感染者やその他の重症患者へのケアが疎かになってしまう。
‘@私は、強調したから今ですんでいると思っている。
事実、Go Toが始まり、みんなが動き出し、冬に向かって感染者は増加の一途だ。
重症床が満杯の医療施設も出てきた。
だから、今出す結論ではない。
小松:神奈川県医師会は4月、公式サイトで「専門家でもないコメンテーターが、
まるでエンターテインメントのように同じような主張を繰り返しているテレビ報道があります」
と苦言を呈しています。
テレビはワイドショーのなかで視聴者の感情に寄り添うと表明しながらも、
決して専門的な見解とはいえない情報を広めることで視聴者に不安を与えて、
医療現場が混乱した、というのです。
テレビ報道の当事者であるわれわれは、神奈川県医師会によるこの指摘を、
真摯に受け止めなければなりません。
未知のウイルスと向き合っている以上、慎重に情報を扱う必要がある。
人びとの閉塞感が強まるなか、われわれは明らかになっているファクトに基づいて報道するという原点に立ち返るべきです。
‘@マスクとPCR検査は今や世界の常識となっている。
PCR検査で制した国が感染拡大を抑制しているのも事実。
何を寝ぼけたことを言っているのだ。
――クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での政権の対応が国内外で批判を浴びていた際、
小松さんは「大下容子ワイド!スクランブル」で、日本が人口当たりの死者数を抑えられている事実を指摘していました。
小松:何をもって当時の安倍政権の対応を批判しているのかわからない、という思いがありました。
船内のグリーンゾーン(非汚染区域)とレッドゾーン(汚染区域)が不明瞭だとか、
適切な防疫体制がとられなかったとの指摘がありましたが、
無症状の潜在的な感染者が船内に散らばっているなかで、
両者を明確に区別するのは容易ではなかったでしょう。
刻々と状況が変化する現場での措置に思いを致さず、「雰囲気」で糾弾するのはフェアではありません。
私は政権を擁護したかったわけではなく、何をもってその対応を批判しているのかの、
客観的な材料を示すべきだと訴えたかったのです。
‘@客観的な材料は多くある。小松氏の勉強不足だ。
・厚生労働省の高山義浩先生はクルーズ船内に本部があるのがそもそも問題。
外に出さなければいけないと懸念する。
・感染管理のプロ岩田健太郎神戸大学教授などをなぜ有効に活用できなかったのか。
・専門家ではなく、指揮権が厚生労働省にあったこと。
船内を適切に衛生管理していることを示す写真付きのツイートを投稿したが、
「ゾーニングができていない」という疑念が浮上し、その後写真のみ削除。
・厚労省職員がマスクだけで乗船し感染。
2月3日
感染者が乗っていたことがはじめて乗客に知らされる。乗客に危機感なし。
厚労省の当時の説明:
「経過観察し、問題なければ自宅に帰ってもらい、発熱などがなければ連絡してもらい、
検査をあらためて行う」
午後8時、横浜港沖に入港。船内のレストランでは盛大なパーティー。3密状態が何時間も続く。
深夜、検疫のため厚生労働省の職員(検疫官)たちが船内に乗り込む。防護服姿で検疫開始。
検疫中にも船内ではイベント実施。
・厚労省が神奈川県健康危機管理課に受け入れ先病院の確保を要請。
PCR検査の結果、31人中10人の陽性確認。
政府は乗客の船内隔離を決定。
・薬を常用していた乗客は、薬の確保に追われる。
船のフロントに連絡しようとしても通じず、厚労省に直接問い合わせると、
「まず船医の判断が優先されるので、船の医務室に問い合わせてくれ」
官僚的で無責任な対応に、「厚労省の判断で船内隔離しているのではないのか」と腹を立てる乗客。
しかし実際には、薬は厚生労働省が発注し、乗客に配られた。
どこへ電話しても通じず、通じたところは対応が素っ気なく、まるで乗客を無視するかのように、
船はその日の昼頃外洋に出た。
この船による「無視」が乗客をうろたえさせ、恐怖を感じさせた。
・厚労省DMATの近藤久禎事務局次長は、
「発熱患者が日々60人出ているのに、それに対して医療チームが到達するのに3日くらいかかってしまう」(談)
このとき、発熱患者をPCR検査してみると、陽性率は5割以上だった。
2月14日
朝九時半頃、厚生労働省の橋本岳副大臣が船内放送で唐突に発表。
内容は、薬の配布が11日で終わった、体調悪化の人に対し緊急の電話窓口を設置した、
80歳以上の人に対して検査をはじめた等々、今までの実績を並べ立てるのみ。
「なんですんだことをわざわざ言うのか。これから何をするのか、どんな方針を立てているのか、
その説明をなぜしないんだ!」
「橋本副大臣の口調には自慢げなものすら感じられた。
閉じこめられ、不安のなかにいる人々の気持ちがまるでわかっていない。ほんとうに腹立たしかった。
そのような気配は橋本副大臣の口調からは一切感じられなかった、このことは絶対に忘れないだろう。」(談)
・日本環境感染学会の医師たちが下船を表明。「学会と病院の指示だ」と理由を説明。
厚労省DMATの近藤久禎事務局次長は「専門家でさえもいられないと判断するようなところに、
我々を残して帰るんですか!?」と憤慨。
「専門家がいられない場所であると認定されてしまったようなもの。
それ以来体制が弱体化したのは事実」(談)
・加藤厚生労働大臣発表:
「14日間の保護観察期間中に発熱その他の呼吸器症状がなく、
かつ当該期間中に受けたPCR検査の結果が陰性であれば(※)、
14日間経過後に公共交通機関等を用いて移動しても差し支えないとの見解を示した」
・2月15日あたりから、各国がチャーター機を日本に飛ばし、自国民を連れ帰ることがはじまる。
2月19日
検疫終了。約500人の下船開始(21日までに順次下船)。
下船許可が下りた人には、次の2種類の書類が渡された。
最初の書類では、経過観察期間が終了し、検査の結果も陰性だったため、
上陸後は、日常生活に戻れる旨が書かれている。
だからこそ、横浜駅までバスで送られた後は、自由解散となり、
公共交通機関を使って帰宅していいということになったはずだ。
ところが、もうひとつの書類では、帰宅後は不要不急の外出を控え、
やむを得ず外出する場合は、必ず公共交通機関の使用は控えるよう指示されている。
このダブルスタンダードにより感染が広がった可能性もある。
『Voice』2020年12月号参照。