私がコロナ対策の経験から学んだ、一つの主題は、これまでごく普通の当たり前と思っていた、
空気を共有した対面コミュニケーションの価値の再発見です。
研究活動や教育、大学運営を円滑に進めるには、相互の信頼関係や共感が不可欠です。
現在のリモート環境だけでそれを醸成するのは難しいということを何度も痛感しました。
サイバー空間における身体性の問題です。
私は、人間がコミュニケーションに用いる言語のルーツは互いの毛繕いだったということを
昨年度の卒業式で紹介しました。
未来の情報メディアに、手触りや温もりといった身体感覚をどのように取り込んでいくか、
それは学問的にも大変魅力的な挑戦課題なのです。
一方で、身体は意識されにくい対象です。
自分のどの筋肉がどのように作用して、動きのバランスをとっているかなど全く意識していないでしょう。
日常生活では、身体は黙って仕事をしているのです。
この寡黙さは、ケガをした時のリハビリテーションやスポーツのコーチングの難しさでもあります。
しかしながら、身体を通して獲得する知識・経験はかけがえのない財産です。
私自身もかつては、対面での演習や講義とオンラインの状況で得られる情報はさほど変わらないように考えていました。
しかし、実は身体知ともいうべき作用が存在しているのです。
対面の機会がコロナ禍で大きく制限された結果、我々は当たり前に思っていた、
大学という物理的な空間のかけがえのなさを再認識したのです。
現状のオンラインツールでは醸成できない身体知の価値は、今後ますます大きくなるでしょう。
その一方で、教室での講義や実験や実習、フィールドワークなど、対面での活動の質を高めていくことも大切です。