米メリーランド大学の医師が、遺伝子操作した豚の心臓を人間の患者に移植し、成功したと発表。
術後3日の時点では顕著な拒絶反応もなく、機能しているとのこと。
移植を受けたのは57歳のデヴィッド・ベネット氏。
ベネット氏は、心臓移植をしなければ余命わずかと診断されているものの、
症状が重いため、通常の心臓移植の対象にならず、ほかの治療法では回復が見込めない状態だったという。
ほぼ前例がないだけに、成功するかどうかはわからない遺伝子操作済みの、
豚の心臓移植だけが唯一の選択肢といて示されたとき、
ベネット氏は「賭けだが、最後の選択だ」と語ったという。
通常、このような手術の許可は簡単には下りない。
しかし、米食品医薬品局(FDA)は、生命を脅かされた状況にあり、
なおかつ他の選択肢がまったくない患者の最後のチャンスとなる「人道的利用」と呼ばれる、
緊急認可手段を適用し、許可を出したという
とはいえ、豚の心臓をそのまま人体に移植すれば、強い拒否反応が出る。
近年はいくつかのバイオテック企業が豚の心臓を人体に移植するための研究と技術開発を行っており、
その中のひとつであるUnited Therapeuticsの子会社Revivicorが、ベネット氏へ移植するため、
遺伝子組み換えで拒否反応の原因となる4種類の遺伝子を取り除き、
一方で6種類の人の遺伝子を挿入した特別な心臓の提供を申し出た。
昨年9月には、実験用に献体された人に豚の腎臓を一時的に移植したところ、
それが機能したとの実験結果がニューヨークの研究者らによって発表されていた。
今回のベネット氏への移植手術は、過去5年間に50頭のヒヒに豚の心臓を移植して研究を重ねてきた、
バートリー・グリフィス医師が担当。
7時間かけて手術を終えたグリフィス医師は、ベネット氏の心不全と不整脈の状態は、
人間の心臓を移植しても改善できなかった可能性があると述べた。
豚の心臓弁は随分前から人に移植されるようになっており、ベネット氏自身も(息子によれば)、
10年程前に弁の移植を受けていたという。
もちろん、術後しばらくは安定していても、その後拒否反応が出てしまう可能性は否定できない。
ベネット氏の息子は「父はこの手術におけることの大きさと重要性をしっかり理解している」とし、
「今後2~3日、いや1日しか生きながらえられないかもしれない。今の時点ではまったく未知の領域です」と述べた。
しかし術後の経過は悪くなく、メリーランド大学医学部の異種移植プログラムの責任者ムハンマド・モヒディン博士は、
「この手術が成功すれば、苦しみながら移植の順番待ちに並ぶ患者たちに臓器を提供しやすくなり、
劇的な変化をもたらすだろう」と期待した。
米国では、臓器移植の順番待ちでおよそ10万人がリストアップされており、
毎日17人が持ちこたえられず命を落としているとされている。
遺伝子操作した動物の臓器を、ヒトに移植する技術をめぐっては、各国で研究が進められていて、
アメリカではニューヨーク大学が去年、遺伝子操作したブタの腎臓を、
実験的に脳死状態の人に移植する手術を2例、行っている。
今後、臓器の安全性が確認され、規制当局から治療法として承認されれば、
将来的に移植用の臓器の確保につながる技術として期待されている.
‘@本人は望みをかけて戦ったのだろうが、世界に貢献したことでもある。