東京女子医科大学病院(東京・新宿区)に設立された、小児集中治療室(小児ICU)のチームが、
1年を待たずに解体されることがわかった。
新型コロナに感染した子供たちの命を救うなど、
小児重症患者にとって「最後の砦」として高い評価を受けていた小児ICU。
2月2日午後0時過ぎ、東京女子医大の地下会議室は重苦しい雰囲気に包まれた。
「重要な話があります」と招集されたのは、小児ICUに関係する外科医、看護師など約80人。
田邉一成院長が、立ち上がってマイクを握った。
「当院の小児ICUについて、経営陣が必要ないと判断しました。
それでリーダーのA特任教授は、まだ任期が残っていますが、今年度で解雇されます。
小児ICUを存続させたいという思いで働きかけをしてきましたが、私の力不足でした。皆さん申し訳ない」
こう言うと、田邉院長は頭を下げた。目には涙が滲んでいた。
田邉院長らは、カナダの大学に在籍していた小児ICU専門医のA氏を特任教授として招聘。
A特任教授をリーダーに、6人の専門医が国内外から集まり、昨年7月に小児ICUの運用がスタートしている。
A特任教授の上司からは、この小児ICUチームが解散することが告げられた。
「小児ICUの医師たちは、A特任教授と一緒に働きたいという理由で、東京女子医大に来てくれました。
しかし、途中でこういう形になったので、全員が現場を離れると決断しました」
突然の発表に、会議室は静まり返った。ただ呆然と聞き入る者が多い中で、泣き崩れる者もいた。
それは小児ICUに配属されている看護師たち。
子供たちの命を守ってきた日々は、いったい何だったのだろうか。
精鋭揃いの東京女子医大・小児ICUチームは、発足直後から高い評価を受けていた。
院内で手術を受けた小児患者の管理だけでなく、全国各地から重症の小児が次々と搬送されたのである。
新型コロナ第5波の時は、都内各地から感染した重症の小児を受け入れ、全員が元気に退院した。
まさに、子供の命を守る「最後の砦」となっていた。
東京女子医大の創立者一族の岩本絹子氏は、同大の出身。
同窓会組織の「至誠会」会長でもあり、2019年に理事長となってから、大学の最高権力者として君臨している。
さらに田邉院長は、小児ICUを必要ない、と経営陣が決めた理由にも触れた。
「運用を始めてみたら、思うように収益が上がらなかった。儲からない小児ICUは、ウチには必要ない、
もうやめてしまいなさい、それが経営陣の判断ですということでした。
小児ICUの設立は、医療事故の再発防止策として厚労省に約束していたものです。
この状況は本意ではないけれど、私にはどうしようもないのです」と、肩を落とした。
しかし、経営陣はこれを一方的に破棄。
外勤をやめなければ給与を下げるという通告を、2021年2月に勤務医へ打ち出した。
医師たちには衝撃が走り、他院へ移るか我慢するかを迫られた。
それが前代未聞の医師100人超の大量退職になった。
2020年6月11日、全職種の「今期の上半期賞与は支給しない」と回答。
ボーナスゼロ回答を受けて、全看護師の5分の1にあたる、
約400人が退職の意向を示した。
日本医療労働組合連合会の調査によると、夏季ボーナスについて回答した、
全国の医療機関338のうち、約3割が去年より支給額が下がったが、
「ボーナスゼロ」回答は東京女子医科大学のみであった。
問題だらけの巨大病院。