「ウクライナ侵攻は起こるべくして起きたのだ」
リトアニア、イングリダ・シモニーテ首相。 1974年生まれ、2020年より首相。
ウクライナ侵攻が起き、ポーランドやバルト三国など、ロシアと国境を接する国々は警戒を強めている。
なかでもベラルーシとも国境を接するリトアニアは、ロシアと関係を強化する中国へも警戒を高め、
台湾との関係を深めたことで中国から制裁を受けている。
そのリトアニアのイングリダ・シモニーテ首相がウクライナ侵攻を受け、英誌「エコノミスト」に寄稿。
1999年のプーチンによるチェチェン紛争は、西側諸国の目を覚ますきっかけとはならなかった。
2007年のエストニアへのサイバー攻撃、2008年のグルジア紛争、
2014年に始まるウクライナへの軍事侵攻と不当なクリミア併合もそうだった。
これらの行動の不当性や責任を、ロシアはすべて否定している。
そして、政権に反対する者、「不都合な」目撃者やジャーナリストは、あからさまに数多く暗殺されてきた。
特にその暗殺はヨーロッパの国々で行われたこともあり、何度も警鐘は鳴らされていた。
それにもかかわらず、西側のリーダーたちは何度も同じことを繰り返し、先延ばしにしてきたのだ。
本当に取るべき行動を取ると自国経済に大きな負担がかかり、侵略者を刺激する懸念を表明し、
ロシアによる常習的な侵略行為を非難、強く糾弾はしたが、
これらのやり方で何とか面目を保ちつつ、対抗できるだろうと多くの人々は考えてきたのである。
政府関係者をブラックリストに入れる一方で、パイプラインの建設は続けられた。
制裁を科したが、それを回避する企業には目をつむった。
さらに西側の政治家はプーチンと踊り(文字通り踊った者もいた)、
引退してロシア企業の取締役会の幹部になった。
それらの企業はクレムリンの軍拡のための資金を提供し、プーチンの取り巻きに巨額の富を与えた。
また、西側諸国は、プーチンの周辺の人々が、西側の銀行に資産を預けるのを許容してきた。
そしてその資金で子供たちに西側の教育を受けさせ、
妻のために西側のリゾート地に別荘やペントハウスを買い、
愛人と西側の景勝地で豪華な休暇を過ごすことも許してきたのだ。
ロシアの危機は何十年も前から深まっており、ロシアはずっと前から、
ウクライナ以外の国に対しても侵略をしていた。
いま私たちが目撃しているのはウクライナとロシアの戦争ではなく、
2014年に始まったロシアによるウクライナに対する戦争の続きだ。
西側の政治家やメディアは、ルカシェンコをなぜかいまだにベラルーシの大統領と呼んでおり、
私は理解に苦しむ。
独裁者は人命を犠牲にすることも厭わない。
民主主義の指導者にとって、人命は何よりも貴重だ。
一方、独裁者は、その野望を達成する上で、人命の犠牲を厭わない。
ロシアの隣国であるリトアニア、ラトビア、エストニア、ポーランドは、長年このことを説明してきた。
ときには、この問題ばかりに目を向けていると揶揄された。
しかし、それでも私たちは警告し続けてきた。
安全保障上の脅威が増大しているのは、私たちの地域周辺だけでなく、
EUおよびNATOに対してでもだ。それゆえに防衛を強化する必要性を私たちは訴えてきたのだ。
このようなロシアの脅威に関する私たちの警告が正しかったとしても、私は嬉しくない。
むしろ間違っていてほしかった。
しかし、ウクライナによる防衛が、ウクライナ人自身以外の人々の多くが想像していた以上に、
うまくいっているのは、私にとって大きな励みとなっている。
また、西側の国々がついに目を覚ましたことにも安堵している。
その目覚めは、2014年4月から2021年12月までにドンバスで亡くなった、
1万4400人のウクライナの人々を救うには遅すぎた。
しかし、ウクライナの主権を守り、西洋文明を保護するのにはまだ間に合う。
かつては見られなかった、異なる民主主義国家間での結束が実現したことを、私は誇らしく思っている。
そしてウクライナへの支援とロシアへの対抗が、かつてないほど迅速に、
比類のない規模で行われていることに対してもそうだ。
中立は自己欺瞞に等しいということもついに認識され、安全保障にさらなる投資が行われることとなった。