クリミア半島を一方的に併合したロシアから、クリミアの検事長に任命され、
日本でも話題になったナターリア・ポクロンスカヤさんが、ウクライナ侵攻をめぐって反戦を訴えている。
クリミア併合をめぐっては、ポクロンスカヤさんはロシアを支持していた。
現在はロシア連邦交流庁副局長を務めており、政権内部にいながら反戦を表明するという、異例の事態だ。
「この狂気と(ロシア人とウクライナ人の)お互いの憎しみを扇動するようなことをやめてください」
ポクロンスカヤさんはそう訴える動画を、TwitterとInstagramに投稿した。
プーチン政権がSNSやマスメディアに対する統制を強める前の2月26日と3月2日。
2月26日の動画では、ユーザーに語りかけるかのように平和の大切さを強調した。
「ロシアとウクライナ人の運命は私たち一人ひとりの手にかかっている。
ロシア人、ウクライナ人、大統領、解放者、国民、犠牲者、善、悪…
(それぞれの立場で)分裂が起きています。
私たちは平和への団結を呼びかけます。私たちは一つなんです」
ポクロンスカヤさんは自らの立場を踏まえ、
「もし可能なら、私にとっての故郷である地域の流血を防ぎ、合意に達するために全力を注ぎます」と強調。
最後に「勝利できる唯一のものは平和だけです」と語った。
一方、3月2日の動画では、戦闘が激化し、死者が増えている現状について、
「狂気」「憎しみを先導している」などと表現して、メッセージ性を強めるものだった。
冒頭では、ウクライナで様々な情報が入り乱れているロシア社会の状況を踏まえ、
「今日、ロシア人とウクライナ人のお互いの恨みを増長させている、
困難な状況を変えうる適切な言葉は見つからない」と吐露。
その上で、ロシアでは「私たちは勝つ。なぜなら神とともに正しいことをしているのだから」
「ロシア人は自分たち(のウクライナ)を放棄しない」という言葉が聞かれるとし、
一方でウクライナでは「ウクライナは自分の土地と自由のために戦っている」というスローガンが叫ばれ、
両国での言説が対立と憎悪をあおっていると示唆。し
そして「この狂気とお互いの憎しみを扇動させるようなことをやめてください」と訴えかけた。
ポクロンスカヤさんは二つ目の動画で、祖母がルガンスク州に住み、「分離主義者」と呼ばれながら、
この侵攻が始まる前に亡くなったことも明かした。
祖母の気持ちを代弁しながら、最後に「全てのロシア人とウクライナ人に訴えます」として、
「必要なのは分離することではありません。誰が愛国者であり、
誰が愛国者でないのかをはっきりとさせずにお互いが団結することです」と声を振りしぼった。
Twitterのメッセージにはロシア人とみられるユーザーから多数のコメントが寄せられており、
「素晴らしい」「ありがとう」などと賛同する言葉がある一方、
汚い言葉でポクロンスカヤさんを罵るようなユーザーも散見される。
ポクロンスカヤさんは、ウクライナ第2の都市、ハリコフの大学で法学を学び、検察官となった。
首都キエフで勤務していたポクロンスカヤさんは、
ウクライナのEU加盟をめぐって流血事件が起きた2014年2月、
当時、親ロシア派の大統領ヤヌコビッチ氏が、
ウクライナ民族主義勢力や欧米路線の支持者によって圧力をかけられ、キエフから脱出。
親ロシア派に信条を寄せていたポクロンスカヤさんは、
新しく誕生した親欧米派の政権に明確に反旗を翻し、辞職を願い出た。
その後、若いころに地方検察庁の検事として経験を積んだクリミアに戻った。
当時、32歳にもかかわらず、断固とした行動が次第にロシア側のメディアに取り上げられるようになった。
犯罪者やマフィアと直接、対決してきた過去の経験も報じられると、
「鉄の意志を持った女性」として注目されるようになった。
そうして、クリミアを併合したプーチン政権から地元政府の首長として祭り上げられたアクショーノフ氏に、
地元検察庁のトップに任命された。
ポクロンスカヤさんよりも経験を積むベテランの男性検事が他にも候補者としていたが、
どの候補者もウクライナ新政権や西側諸国と厳しく対立する現状におじけついて、
その打診を拒絶したとされる。
ところが、ポクロンスカヤさんは二つ返事で了承したのだという。
ロシア国内ではクリミア併合で一気にプーチン大統領の支持率があがった。
ポクロンスカヤさんの知名度も一気にはねあがり、
通常の検察業務に加え、私生活の面でも全国ニュースに取り上げられるようになった。
2016年にはクリミアの検事総長を辞任。プーチン大統領を支える与党統一ロシアに入党し、
9月の下院選に初当選。下院議員中に訪日をしようと計画したが、日本外務省にビザの発給を拒否された。
ポクロンスカヤさんはかつて、EUとNATO入りを目論むキエフの政権を「ファシスト」と呼び、
「彼らのために働くよりも監獄にいたほうがましだ」と語ったこともある。
ただ、今回は、ロシア、ウクライナのどちらか一方を非難するということはなく、
あくまで反戦と平和を訴えている。
相当頭の切れる人だ。
言わせられているのか自ら言ったのか。真意は定かでは無い。
いずれにしろ、ロシア国民に大人気で、ロシア政府の一員であるポクロンスカヤさんが、
反戦の姿勢を明確にしたことの意義は大きい。
両軍に武器を置くことを呼び掛けたことは、ロシア国内の世論にも影響を及ぼす。
ロシア軍も相当困窮しているのは間違いない。
プーチンもこんなはずではなかったの、かも知れない。
流れが変わるといいのだが。