電力不足の一番の原因は、日本の全発電電力量において、
未だに大きな割合を占める「火力発電」の減少。
全国で火力発電所の休廃止が相次いでいる。
休廃止の理由は稼働しても「採算が合わない」からだ。
火力発電所は他の発電施設に比べ、施設の維持・運営に費用がかかる。
電力自由化以降、「卸電力市場の取引の拡大」、「再エネ電気の増大」により、
卸電力市場における電力の取引価格は低迷。
また、春・秋の太陽光発電が多く発電する時間帯(晴天時の昼間)は電気が余るため、
火力発電所も出力を落として稼動する。
平成28年4月の法改正で、「発電所の休廃止」が“許可制”から“届出制”に変わった。
採算が取れないと判断した発電事業者がやめたいと思えば、国の許可なく、
いつでも、休廃業できるようになった。
その結果、国は火力発電所の休廃止をコントロールできなくなり、電力不足に拍車がかかることに。
2022年だけでも300万㌔㍗をこえる火力発電所の休廃止が予定されている。
経産省は2016年から2030年までのあいだに約1853万㌔㍗(大型発電所約18基分)
の供給量が落ちるとしている。
その動きのなかで「供給予備率」がきわめて低くなっている。
東京電力にいたってはマイナスとなっている場合もある。
電気は貯蔵できず、常に需要にあわせて供給を調整することになるが、
ある程度の余裕を持たせておかないと、突発的な事故や災害が起きたとき、
需要と供給のバランスが保てなくなる。このゆとりの指標が予備率だ。
予備率が高いほど電力に余裕があり、予備率が低くなると電力不足が起こる。
そして、電気を安定的に供給するためにも最低でも3%以上の予備率が必要だ。
ちなみに2022年1~3月の東京エリアの見通しはマイナス2・1~0・8と非常に低い数字が出ており、
安定供給にはほど遠い。
だから政府もポイント付与などと必死になっているのだ。
政府は2030年度には温室効果ガスの排出量を2013年度と比べて46%削減し、
2050年に脱炭素を実現するとの目標を掲げている。
だが、太陽光発電や風力発電など再生エネルギーは安定しない。
太陽光ではとくに曇りの日が多い冬場には、発電量がゼロになる日も多く出てくる。
風力発電も風が吹かないことには、役に立たない。
天候次第で発電量の予測ができない再エネの増大に対応して、
電力の安定供給のための「調整役」としてバックアップ電源となる火力発電が必要になってくる。
だが、電力自由化による競争激化のなかで、電力会社は収益を生まない老朽化した火力発電所を、
建て替えるメリットが見いだせず、保有できなくなってきている。
皮肉なことに、再エネ設備の導入が増えれば増えるほど火力発電は減少していかざるを得なくなる。
加えて電力不足の要因の一つにLNG(液化天然ガス)の不足があげられている。
日本はLNGをほぼ輸入に頼っている。だが徐々に気化してしまうため長期保存には向かない。
温室効果ガスの排出量の少ないLNGは世界的に奪い合い状態で、
価格高騰や供給不足が顕在化している。
日本が輸入するLNG価格も1年間でほぼ2倍になっている。
中国が「爆買い」で日本を抜いて世界最大の輸入国になり、ヨーロッパでもLNGが不足し電力価格が暴騰。
そして、悩ましいことに悪名高いロシアがLNGの輸出国2位なのだ。
日本もロシアから輸入している。
電力の消費量を見ると、産業用も家庭用も減少傾向にある。
省エネ推進や人口減少、海外への工場移転などが進み、今後電力需要が増える見通しは薄い。
結論として、昨今の「電力不足」は、実際に電力供給能力がないのではなく、
「電力自由化」や「再エネ推進」といった政府の政策に根源がある。
電力自由化前は、大手電力会社は必要とされる電源をある程度まで採算度外視で確保することができた。
価格よりも安定供給が優先され、発電コストは総括原価方式による電気料金で回収することができた。
電力自由化によって、日本社会における電力の安定供給に責任を負う主体が存在しなくなった。
さらに各電力会社は自社の利益追求を最優先し、採算があうかどうかを唯一の基準に設備投資計画を進め、
安定供給にとって必要な火力発電も採算にあわないと判断すれば次々に廃止してきた。
そのもとで電力の安定供給体制は崩壊し、大停電がいつ起こっても不思議でない危険な状態に陥っている。
民間業者としてみれば当たり前の話で、途中から制度を変えられた電力各社だけを責めることは出来ない。
かつては「電力の安定供給の優等生」といわれた日本が、政府の誤策で今や落ちぶれている。
以前より指摘しているが、ライフラインは国が責任をもって運営すべきだ。
政府は福島原発の事故も、国有財産の看板が落ちてケガをしても責任は取らない。
新型コロナワクチンで亡くなっても責任をとらない。
国がその責任を放棄したことが最大の罪だ。
ただ、ウダウダ言っても仕方ないので、協力できる範囲で協力して乗り切るしかない。