小野昌弘イギリス在住の免疫学者・医師。8/6(土)
英国は「マスクを外してコロナ禍が終わった」国という理解が広まっていますが、
本当の状況はかなり異なります。
英国がマスク着用義務などの生活規制を撤廃したのは、
ワクチン接種が国民に広く行き渡ってから重症患者の顕著な急増がみられなくなり、
病院の状況が「通常の範囲内」であると判断した結果の政治判断です。
しかしながら、英国の公的医療NHSは日常的に深刻に崩壊していますので、日本の参考にはなりません。
パンデミック以前から崩壊していた英国の医療。
英国のNHSは無料で診察してもらえますが、診てもらえるのは基本は一般医(GP)のみで、
たとえば皮膚科や耳鼻科、循環器科といった専門医にみてもらうためには、GPからの紹介が必要です。
パンデミック以前から保守党政権下で医療費削減が進み、
専門医に診てもらうのに半年以上待つのが普通になっていました。
パンデミック以前でも、数ヶ月から半年待つのが普通でした。日本の感覚からすると異常な待ち時間です。
プライベート医療というものも存在しますが、診察料だけで5万円(300ポンド)程度かかり、
投薬・検査などいずれも高額になり、庶民には払うことが難しいものです。
そして2020年からのパンデミックで、英国の医療崩壊のレベルがさらに上がります。
2020年〜2021年のコロナ大流行中、英国はコロナ患者の治療に注力するため、
手術室の機能(人工呼吸と全身管理のための設備・医療者)をコロナ救急医療に投入します。
このため、コロナ以外の医療は基本全て停止となりました。
とくに、がん治療の手術を長く止めてしまったことが、大きな傷跡になります。
コロナ以外の医療を止めた結果、手術はもちろん、専門医に受診することすら待機リストが異常な長さになります。
緊急性を要するがん患者でも、専門医に紹介されたあと、専門医に診てもらって治療を受けるのに、
長い時間がかかり、2ヶ月以内に治療開始できるのが全体の3割のみの状況です。
公的な統計記録にはありませんが、専門医紹介後、
最初の癌治療を受けるまでに6ヶ月待っているという人々の声も多々あります。
慢性疾患ですと、専門医に紹介されてから治療を受けるまで1年〜1年半待ちの人すら多数いる状態です。
英国の統計では、現在の英国の労働人口のうち、
およそ30万人の人が「慢性的な疾病」のため働けない事態にあると分析されています。
この30万人という数字は、英国で慢性疾患のための治療を1年以上待っている人の数とほぼ同じです。
英国において、健康問題のため働けない若い人が急増しているという問題の中心は、
コロナ後遺症ではなくて、日常的な医療崩壊のため、
あらゆる慢性の病気がまともに診てもらえず治療してもらえない状態になっているところです。
パンデミック中、英国中の人々が公的医療機関NHSに感謝し、応援していました。
小野昌弘
イギリス在住の免疫学者・医師
‘@日本では感染対策緩和派が切り取って、「海外ではマスクをしていない」
「みんな普通の生活をしている」と、日本にも同様の対応を迫る。
内容を精査しないで、自分の考えに都合のいいよう張り付ける。
あえて言えば、海外の多くは新型コロナで亡くなっても仕方ないとの考えがある。
日本もそうなりつつあるが、新型コロナに関係している医療従事者らはがんばってくれている。
#ありがとう医療従事者のみなさん