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​維新躍進のウラで、大阪の「コロナ死者数」が飛び抜けて最悪。

当初より再三問題視してきたが、ほとんど取り上げられることはない。‘@



山岡 淳一郎(ノンフィクション作家)

総選挙で議席を大きく伸ばした「日本維新の会(以下、維新)」は、改憲論議に火をつけ、

国民民主党とも連携して存在感を高めようとしている。

メディアを使った反射神経のよさが、ますます人気をかきたてる。

実際、吉村氏は大わらわなのだろう。

結果的に新型コロナのパンデミックが維新と吉村氏の人気を引き上げた。

が、しかし、である。マスコミがつくるイメージと客観的なデータの食い違いは大きい。

都道府県別の人口100万人当たりの新型コロナ死者数を比べると、

大阪府は347.60人と飛びぬけて多い。全国平均の2倍以上だ。

夏の第5波で医療崩壊が際立った東京都は227.28人と大阪府より100人以上少ない。

大阪のコロナ死者数の多さは印象論で語ってはいけないだろう。

2020年4月に松井一郎大阪市長が大量の雨合羽を医療機関に送り付け、

「滅菌処理もされてない。規格もバラバラで善意の押し売りは勘弁してほしい。どこで使えばいいのか」

(大阪市内の病院関係者)と困惑と混乱を招いたことや、

同年8月、吉村知事が唐突に「ウソのようなホントの話をさせていただきたい」と切り出して、

「ポピドンヨード(=イソジン)でうがいをすると、コロナの陽性率が減少する」と言って、

フェイクニュース扱いされたことがあった。



ゴールデンウィーク前後の大阪では目抜き通りから一歩入ったコロナ感染者の家々のカーテンは閉められ、

「見捨てられた」と家族は打ちのめされていた。

4月1日から5月20日までに全国でコロナ感染者2870人が亡くなっているが、

そのうち大阪府内の死者数は884人と、全体の30.8%を占めた。

感染者の「入院率」は、わずか10%まで落ちる。

医療の受け皿がなく、自宅療養もしくは入院・療養等調整中で自宅待機を強いられた人の数は、

5月半ばに1万8000人を超える。

そのころの大阪の人口当たり2週間累計の死亡者数は、米国やインドよりも多く、

感染の波は、それぞれ高い山を形成するが、しっかりつながっている。

じつは、2020年末から2021年早春にかけての第3波への大阪府の対応が、

第4波の被害を拡大させたといっても過言ではない。

2021年2月19日、吉村知事は、もう我慢も限界とばかり、2度目の緊急事態宣言を、

2月末をもって解除するように国に要請すると発表した。

「飲食店にとって1日1日が死活問題。

感染の爆発的拡大や医療崩壊を防ぐことが(宣言の)趣旨であり、解消されれば解除すべきだ」

と記者団に語る。



吉村知事は宣言解除に向けて、大阪府独自の基準を設け、解除要請のタイミングをはかっていた。

この日の感染者数、重症病床使用率は、独自基準をクリアしている。

維新と太いパイプを持つ菅義偉前首相は、吉村氏の要請を受け入れ、

東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県よりも3週間も早く、大阪府の宣言を解除した。

しかし、その時点で感染者数も、重症病床使用率も十分に下がってはいなかった。

大阪の感染者数は、第1波の宣言解除後には7日平均でゼロまで減った。

2020年夏の第2波の後も40人台に下がったが、2021年2月の2度目の宣言解除後は70人台より下がらず、

3月9日には100人を超える。リバウンドがあまりに早い。

感染者数が、一気に増えても、吉村知事は「まん延防止等重点措置」を適用。

3度目の緊急事態宣言が発出されるのは4月25日まで待たねばならず、すでに感染爆発状態だった。

しかし、ここの政治判断について、当事者のリーダーたちはほとんど語っていない。

さらに、大阪の医療崩壊を早めた要因は、保健・医療体制の2つの弱点によると考えられる。

第一に、感染者の早期発見・隔離の重責を担う保健所の対応能力の不足だ。

大阪府に接する和歌山県仁坂吉伸知事は、県のホームページの、

「知事からのメッセージ(2020年12月10日)」に大阪の保健所の対応を問題視する文章を載せている。

「一例をあげると、和歌山の人と大阪の人が会食をして、和歌山の人の感染が確認されたので、

当然その濃厚接触者ということで、大阪に通報しました。

われわれは自分たちがやっているように最寄りの保健所がすぐに飛んで行って、

その人にPCR検査をして、感染しているかどうか確かめているだろうと思っていたら、

その後、検査されていないことがわかりました」



仁坂知事は、「改善」を大阪府にアドバイスしたが、なかなか実行されなかったという。

もちろん人口884万人の大阪と、92万人の和歌山を同一視はできないが、

大阪府・市の保健所は人手不足が顕著で、他部署からの応援が入っても、なかなか機能しなかった。

2つ目の弱点は、治療の最後の砦である重症病床の確保の難航である。

そもそも大阪は、重症患者に必要な人工呼吸器やエクモ(体外式膜型人工肺)の治療ができる、

ICU(集中治療室)の数が多くない。

大阪府で、手術や救命救急用のICUは615床。人口10万人当たりの数は6.9床(日本集中治療医学会データ)。

かたや東京都はICUの合計が1095床で、10万人当たり8.0床と、かなりの差がある。

大阪では重症病床の確保が進まず、医療崩壊大阪市で発生した。そこから周辺に波及する。

大阪府・市の医療崩壊は、もともと手薄な保健・医療体制が引き起こしている。

誰が、そのような状況に追い込んだのか。

大阪の維新府政は「二重行政の廃止」「行政のスリム化」を訴え、

医療・衛生部門の職員の数を減らしてきた。

公的病院の大阪赤十字病院や、済生会千里救命救急センターへの補助金を打ち切っている。

三つの大阪市立病院を非公務員型の独立行政法人に移行し、一部を大阪府立病院機構に統合した。

府の支出を減らされた府立病院機構は資金難にあえぐ。

機構の大阪母子医療センター(和泉市)は新生児を運ぶ専用保育器の購入代金を、

三島救命救急センターは人材確保の資金を、

それぞれインターネットのクラウドファンディングで集めるほど切羽詰まっている。

大阪府の惨状は、「小さな政府」を志向し、改革、効率化の謳い文句で、

医療の公的支えを弱めてきたことに起因する。

その根本方針を、維新は変えてはいない。