わたしと同様の見方をしている人はいるものだ。
民主的正統性を欠く限り、国民の支持を得ることは難しい。
深く、詳しく分析している。
なぜ、国内から一個人ではなく、日本のために冷静な判断の声が出てこないのか。‘@
安倍晋三は必ずしも人気のある指導者ではなかった。
トバイアス・ハリス(米シンクタンク「アメリカ進歩センター」上級フェロー)
<海外からは高く評価される安倍晋三が、国内でたたかれるのはなぜか。
「国葬反対」は意外ではなく、むしろ明日への警告だ>
(※2022年9月24日執筆)
去る7月8日に奈良県内の遊説先で銃撃され、死亡した安倍晋三元首相(享年67)の国葬が、
9月27日に東京都心の日本武道館で行われる。
疲れを知らずに世界各地を飛び回り、日本の新たな役割を模索してきた故人にふさわしい顔触れがそろうと言える。
(皮肉だろうか、笑)
しかし各国の首脳から寄せられた深い弔意や故人に対する賛辞と、
日本国民の抱く気持ちとの間には大きなずれがある。
例えば日本経済新聞による直近の世論調査では、安倍の「国葬」に反対する人が60%で、
賛成する人は33%にすぎなかった。
岸田文雄政権が閣議決定で(国会に諮ることなく)安倍の葬儀を国葬として行うと決めたのは7月22日だ。
しかし、この決定が岸田政権にとって政治的に深刻な重荷となってきた。
現に首相の支持率は、国葬を前に急落している。
国葬にまつわる論争には、安倍をはじめとする自民党政治家と、
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係が明らかになったことが少なからず影響している。
統一教会をめぐる金銭問題があったからこそ、殺害犯の山上徹也は安倍を標的と定めることになった。
自民党政治家は集票や選挙応援、資金集めなどで統一教会に依存する一方、
教会による一部信者の搾取には目をつぶってきた。そのことに、自民党支持者も含め、有権者は憤りを感じている。
党と教会の関係に対して世間の目が厳しくなる以前から、国葬という扱いに対する支持は高くなかった。
葬儀は政治家・安倍晋三のキャリアを締めくくるものだが、そのキャリアには絶えず物議を醸す要素があった。
国葬扱いの是非をめぐって世論が二分されたのも、
とかく分断を招きがちだったこの政治家にふさわしいのかもしれない。
安倍は日本の外交・安全保障政策を根本から変え、コンセンサス(合意)重視の日本政治に、
「数の力」で押し切るスタイルを持ち込み、トップダウンの指導体制を確立しようと努力した。
だが、そうした新しい政治の在り方が必要な理由を、主権者たる国民に納得させることはできなかった。
つまり、統一教会の問題で国葬反対の声が高まったのは事実だが、
日本国民の間にはずっと以前から、政治家・安倍晋三に対する賛否両論が渦巻いていたと言える。
第2次政権ではアベノミクスを打ち出し、世界の注目を集めた。
それで人気が高まった時期もあるが、たいていの場合、安倍に対する評価は二分されていた。
安倍に反発する人々の敵対心も激しかった。まるで独裁者だという非難は絶えず、
一部の政策に関しては大規模な抗議行動が繰り返された。
実際、第2次安倍政権に対する国民の支持は、お世辞にも熱烈とは言えなかった。
野党よりは自民党のほうがましだと思い、自民党政権のもたらす安定を買っていたにすぎず、
むしろ国民の過半数は安倍の進める政策を嫌い、政権末期に浮上した一連の疑惑に愛想を尽かしていた。
安倍は選挙に勝ち続けたが、大多数の日本人に支持され、あるいは愛されていたとは言い難い。
安倍は決して人気のある指導者ではなかった。
国葬で安倍に敬意を表するという岸田首相の決定には各方面から異論が噴き出した。
それは意外なことではない。むしろ明日への警告と言っていい。
安倍は一貫してアジアや世界各国との関係強化に努め、
21世紀の新たな脅威に立ち向かう日本の安全と繁栄を守ろうとしてきた。
そういう人物の国葬に世論の強い反対があるという事実を、
岸田をはじめとする日本の政治家は真摯に受け止めるべきだ。
政治家がいかに変化の必要性を痛感していようと、国民の広範な支持という『民主的正統性』を欠く限り、
日本が国際社会で、安倍の夢見た指導的な役割を果たすことは難しい。
軍事力を強化し、アメリカだけでなく他の地域大国との絆も深め、トップダウンの強い指導力で国を守り、
繁栄を維持していく。生前の安倍は、そんな自分のビジョンを国民に丁寧に説明したいと語っていた。
その思いを受け継ぐ覚悟が、今の与党政治家にあるだろうか。
‘@最後の「丁寧に説明したい」は、自民党与党の常套句で、ある意味逃げの時に使う言葉だ。
そんなつもりは毛頭ない。
黙ってオレたちの言うことを聞いていればいいんだよという態度だ。
そして、残念ながら繁栄を維持どころか、安倍政権下で日本は下落の一途になってしまった。
今の与党ではこれを盛り返すことは到底無理だ。
野党でも無理だ。
国の在り方を根幹から変換しなくてはならない。
与野党総動員で。
国民も目を覚ますべきだ。