黒塗りで伏せていた実績をしれっと発表、ずさんな投与実態が浮き彫りに。
新型コロナ禍初期に、未承認の薬でありながら、「観察研究」の名目で新型コロナ患者への投与が続けられた「アビガン」。
厚生労働省は、その使用実態に関する調査結果を2月中旬、こっそりと発表。
本紙「こちら特報部」の情報公開請求には「不当に国民の間に混乱を生じさせる」として、
全て黒塗りで伏せてきたにもかかわらず。
発表はA4の紙1枚。結局、アビガン観察研究とは何だったのか。そんな簡単な報告で終わっていいのか。
アビガンは元々は、富士フイルム富山化学(東京)が開発した新型インフルエンザの治療薬。
2020年4月、新型コロナの緊急事態宣言を初めて発令した時の記者会見で、
安倍晋三氏が「(コロナの)症状改善に効果が出ている」と言及。
新型コロナへの有効性を示す治験結果がないにもかかわらず、政治判断によって、医師の管理下で患者に投与する「観察研究」が進んだ。
富士フイルム富山化学は治験による正式承認も目指したが、20年12月の厚生労働省の専門部会で「有効性を証明できない」と未承認に。
北米やクウェートの海外治験でも証明できなかったのに、観察研究での投与は続けられた。
なお「こちら特報部」は黒塗り開示を受け、厚労省に対し、行政不服審査請求をしている。
情報公開のあり方だけではない。アビガンの観察研究の結果も散々だった。
A4サイズでわずか1枚の報告書からも、不十分な管理態勢での投与が浮かぶ。
報告書によると、新型コロナ初期から21年12月までに、約1160施設の5万1008人に投与された。
アビガンは胎児に影響を及ぼす懸念があるため、妊娠の可能性のある女性らへの投与は禁忌だが、
そうした女性に服用させた事例があったほか、千葉県の公立病院では、処方してはいけない自宅療養者ら約90人に投与していた。
これら以外にも、5施設429人で、入院以外での使用などルール違反があった。
健康被害は報告されなかったという。
薬害オンブズパースン会議のメンバーで、江戸川大の隈本邦彦・特任教授は、
「大変お粗末な実態が明らかになった」と指摘。
観察研究の事務局である藤田医科大学(愛知)に報告された患者情報は1万7508人。
つまり、投与された患者の3分の1しか、具体的な情報を把握できていなかった。
隈本教授は「無料で国から薬を受け取っておいて、患者の情報は登録しないずさんさ。
観察研究の形で薬を供給すれば安全と考えた国の制度設計自体が甘かった」と憤る。
アビガンには多額の税金が投入された。
与党からも批判の声が出た。医師で弁護士の古川俊治・参院議員(自民)は、
「諸外国ではあっという間に治験の態勢を組んだ。治験なき投薬なんてありえない」と怒りと悔しさをにじませ、
「これがまかり通るなら、製薬企業はなぜ苦しい思いをしてデータを積み上げ、治験のクリアに全力を注ぐのか」と憤る。
「本来は国立国際医療研究センターを中心に治験態勢を組まなければならなかった。二度とこんな失態を犯してはいけない」と強調。
治療薬だけではない。コロナ初期にアビガンとともに、政策決定の不透明さが指摘されたのがアベノマスクだった。
神戸学院大の上脇博之教授(憲法学)は、マスクの納入業者や契約文書などの公開を請求したが、
マスクの単価などが黒塗りで開示されたため提訴。3月中旬に開示決定された。
上脇教授は「政策決定が本当に妥当だったかは、情報公開請求などして検証するしかない。
もう済んだこと、まだやっているのかというなら、憲法の国民主権はこの国から吹っ飛ぶ」と警鐘を鳴らす。
「徹底した検証がなければ、再発防止策は立てられない。同じ過ちを繰り返さないために教訓を引き出す必要がある」と話す。
‘@「もう過去のことだから前を向いて進む」という言葉は一見キレイに聞こえるが、
過去の検証と反省が無ければ、また同じ失態を繰り返す。
そして次の過ちは前のものよりさらに酷いものとなる。