「こんなんじゃ話にならないんだよ」
昨年12月上旬、総理官邸の執務室。
菅義偉総理が発した怒声に、その場は凍り付いた。
財務省主計局長の矢野康治は、脱炭素技術の研究・開発を支援する基金に、
1兆円を充てる案を主張したが、菅総理は倍増するよう迫った。
「そんなことはできません」。かつて官房長官秘書官として菅に仕えた矢野が食い下がると、
いらだった菅総理は説明資料を投げつけた。菅の意向通り、金額は2兆円に積み増された。
「自らの政策に反対するのであれば、異動してもらう」と公言する菅総理は、
官房長官時代も、官僚をどなりつけることは多々あった。
ただ、あくまで政権ナンバー2の立場であり、最終決定権者は安倍総理だった。
しかし、当時も「今は、誰も菅さんに反対できなくなってた」。安倍政権を知る政府関係者は語る。
総理就任から16日で半年。
「史上最強の官房長官」ともてはやされた菅総理は、総理という立場に苦悶している。
新型コロナウイルス対策は「後手後手」と批判され、国民への説明不足も指摘されている。
歴代3位の高さだった発足当初の内閣支持率(74%)は、一時は39%とほぼ半減した。
須賀総理は「官房長官時代と比べて圧倒的に情報が入らなくなった」と漏らしているとされる。
官邸5階、総理執務室と長官執務室は20メートル強しか離れていない。
しかし、最高権力者の総理と官房長官の実際の距離は、限りなく遠いと、
ある省の次官は指摘する。
‘@見えないのではなく、見ようとしない、見えても受け付けないのだ。
それは本人が、「反対するものは更迭だ」と公言している
官房長官の時はそれでよかったが、決定賢者になるとそうはいかない。
そういう意味では、安倍前総理は、そこら辺りはうまくやっていたのかもしれない。
そして、それは、加藤官房長官の能力に準ずる。
しかし、それを選んだのは菅総理本人だ。