「死因はコロナではない」と言う人へ。
世間では、感染拡大の「ピークは越えた」と言われているが、まだコロナ病棟に変化はない。
もしかすると、これこそが第6波と第5波を比較した際の大きな違いかもしれない。
昨年夏の感染拡大では、一気に感染が収束へと向かった。
だが、現在の感染拡大の波は高止まりを続ける気配を見せている。
コロナ病棟には平日、土日を問わず1日2~3件の入院依頼がコンスタントに届く。
同時に1日2~3人が退院もしくは死亡で病棟を去っていく。
結果としてコロナ病棟の病床使用率は5-6割からは減らずに維持している。
高次医療機関である当院、埼玉医科大学総合医療センターへと入院する患者は、
多くは中等症~重症の患者たちだ。患者の回復はゆっくりでなかなか重症化する患者が減らない。
果たしていつになれば波が引いていくのか、見通しが立たない状況だ。
「今、新型コロナで亡くなっているとされる多くの人の死因はコロナではない」。
そんな情報が度々拡散されている。だが、これは現場で目の当たりにしている真実ではない。
確かに、第6波となり、オミクロン株が主流となる中でコロナによって肺炎が悪化し、
シンプルな呼吸不全で亡くなる方の数は減った。
現在は、コロナに感染したことによって腎不全など持病が悪化して亡くなる患者、
コロナに感染したことがきっかけでがん治療がストップし、がんが悪化して亡くなっていく患者、
コロナは軽快へと向かったものの細菌性肺炎や別の感染症による敗血症を引き起こして亡くなっていく患者など、
死因は多様化している。彼らはコロナに感染しなくても、このタイミングで亡くなる運命だったのだろうか?
いや、コロナがきっかけで病気が悪化しているのだ。
「コロナ感染は、その患者の死と関係ない」という認識は誤りと言わざるを得ない。
コロナ禍においては、現場を見たことがない人々が数字だけを基に何かを語ることも少なくない。
「交通事故で亡くなっても、コロナ陽性であればコロナの死亡にカウントされる」
「コロナで亡くなっているとされる人の多くは他に死因がある」と主張する人もいるが、
コロナ感染中に事故で亡くなる方や交通事故で搬送されたらコロナ陽性だったと判明する患者は、
ごくわずかの例外的な出来事だ。
コロナ病棟で亡くなる患者の死に、少なからずコロナが関連していることは疑いようがない。
こうした実態を踏まえずに、憶測で楽観論を振りまくのはデマの拡散に繋がるため控えるべきだろう。
埼玉県内でも、高齢者施設におけるクラスターが多発していると聞く。
積極的な治療を希望する高齢者であっても、なかなか受け入れ先が見つからないのが現状だ。
コロナ治療の現場に立つ一人の医療者として、こうした状況はまだしばらく続くと予想している。
入院を必要とする高齢患者が増えれば増えるほど、予後の対応も必要となる。
コロナの症状が軽快したとしても、介護やリハビリなど必要なケアは少なくない。
入院も長期化する傾向にあることから、引き続き医療提供体制は逼迫し続けることが予想される。
「私はコロナの治療をするために、医者になったわけじゃない」という葛藤を抱く人も少なくない。
忙しくてもバラエティ豊富な興味のある専門分野に集中できるわけではなく、
ロナばかり2年間診療し続けているのだ。時には差別や誹謗中傷にさらされることもある。
誰しもがきっと一度は、「この状況がいつまで続くのか」とうんざりした気持ちになったことがあるはずだ。
私自身も、この2年間、コロナ診療にまつわるさまざまなストレスに苦しんでいる。
明らかに実態と乖離した情報や医学的に正確ではない情報を発信する医療者もいる中で、
せめて現場で何が起きているのかを伝えようとメディアで発信を続けていると、
自分や家族の情報をネット上でさらされたこともある。
「こんなことになるくらいならば、発信しない方がマシだ」と考えてしまう時もある。
単純な病床使用率、重症者数のデータだけでは見えない苦労がそこには存在している。
おそらく、この先さらに離職者の問題は大きくなっていくだろう。
その皺寄せは、コロナ診療から離れたところにも、やがては及んでくる。
あらゆる人々が他人事ではいられないはずだ。
埼玉医科大学総合医療センター岡秀昭医師。
‘@岡医師も私と同様の見解だ。
メディアや世間と医療現場の乖離、医療従事者の中にさえいる。
憶測で楽観論を振りまく素人のコメンテーター。
医療従事者や介護者の大変さを忘れてしまった国民。
「医療従事者に感謝」と言う言葉は、いつの間にか消えてしまった。