政治・経済、疑問に思うこと!

より良い日本へ願いを込めて。

​ハンガリーの「異次元少子化対策」の深刻な”副作用"

プレジデントオンライン

深刻な日本の少子高齢化であるが、コロナショックを受けてそれが一段と促されてしまった。

厚労省が今月発表した2022年の人口動態統計(概数)によると、出生数は77万747人で、初めて80万人を下回った。
合計特殊出生率も1.26で過去最低となった。

日本のみならず先進国、そして中国でも、少子化対策の必要性が叫ばれて久しい。

そうした中で、EUの加盟国であるハンガリーによる「異次元の少子化対策」が日本で注目を集め、称賛する声が聞かれる。

具体例を挙げると、ハンガリー政府は子育て世代への無利子貸付や住宅購入補助、子どもがいる母親の所得税の優遇といった諸政策を用意し、子育てを支援してきた。

これらの少子化対策に伴うハンガリー政府の支出は、名目GDPの5%に及んでいる。

日本の子ども・子育て支援に対する比率は2020年時点で1.7%だった(OECD平均2.1%)。

単純比較はできないが、ハンガリー少子化対策の規模の大きさが分かる。

その結果、2011年には1.23にまで低下したハンガリー出生率は、2020年には1.56まで上昇した。

一方で、ハンガリー政府によるこの「異次元の少子化対策」は、看過できない副作用をハンガリー経済にもたらしている。

具体的には、住宅価格の高騰だ。2015年を基準(100)とした場合、ハンガリーの名目住宅価格は2022年に253.6と2.5倍も上昇した。

一方、物価変動の影響を除いた実質住宅価格も175.0と1.75倍上昇した。



ハンガリー政府が住宅購入支援策を実施したことが、住宅価格の上昇を一段と促したのである。

親2人子2人の標準世帯が一定規模の住宅を購入する場合、新築物件では約105万円の、中古物件では約60万円の補助金が、政府から支給される。

こうした補助は、多子世帯であればあるほど拡充される制度設計になっている。

例えばハンガリー政策金利の水準は2023年4月時点で13%であるが、子どもが3人以上いる世帯の場合、25年間約400万円までの借り入れに関しては3%の固定金利が適用される。

借入の一部の適用にとどまっているとはいえ、政策金利との見合いで考えれば、3%が極めて低い水準であることに変わりはない。

さらに新築住宅に関しては、購入に際して発生した付加価値税の負担分が約200万円まで払い戻されるとともに、

適用される付加価値税率も27%から5%にまで引き下げられる。

ほかにも様々なインセンティブが用意されているが、少子化対策であるから、基本的に多子世帯ほど手厚い補助を施すように制度が設計されている。

住宅価格が下がらなければ、次世代の住宅購入が難しくなるという新たな問題が出てくる。

次世代が住宅を購入できなければ、その世代の子育ても困難となり、結局は出生率を押し下げる方向に働くかもしれない。

次世代の住宅購入を支援するための政策を強化すれば、財政を悪化させ、そのツケを次の世代が払うことになりかねない。

称賛されることが多いハンガリーの「異次元の少子化対策」だが、同時にハンガリーの経験は、大規模な少子化対策が持つ一種の矛盾を示す好例ともいえそうだ。

有効な少子化対策が大規模に行われることは結構なことだが、結局は、コストの大部分を将来世代に押し付けるようなことがないように制度を設計する必要があるのだろう。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

土田 陽介 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員