私は野口派。‘@
アベノミクスの7年半で日本は「米国並み」から「韓国並み」になった。
韓国の1人当たりGDPは 直近では世界で29位(日本は第24位)だ。
こうして「日本がアメリカ並みから韓国並みへ」という変化が起きた。
(野口悠紀雄:一橋大学名誉教授)
日本の賃金や1人当たりGDP(国内総生産)は、アメリカの6割程度と低い水準だ。
表面的に見ると、アメリカの成長率が高かったのに対し日本が成長しなかったことが原因だ。
しかし、本来は為替レートが円高になって、この差を調整したはずだ。
“円安政策”を取ったことが日本を貧しくした基本原因だ。
日本の1人当たりGDPはアメリカの63%でしかない
日本の賃金が安いことが問題になっている。
OECDの賃金データで見ると、2020年に日本が3万8514ドル。
これはアメリカの6万9391ドルの55.5%だ。
20年の1人当たりGDPは、日本では4万146ドルであり、アメリカの6万3415ドルの63.3%だ。
日本はアメリカのほぼ6割程度の水準だ。これが「安い日本」と言われる現象だ。これは大きな問題だ。
とくに賃金が低水準なのは由々しき問題だ。
賃金やGDPの問題でよくいわれるのは、過去20年以上にわたって日本がほとんど成長しなかったことだ。
それに対して、世界の多くの国で経済が成長した。「このため、日本が取り残された」と言われる。
2000年に、市場為替レートで換算した1人当たり名目GDPは、アメリカが3万6317ドル、
日本が3万9172ドルであり日本が8%ほど高かった。
ところが、00年から20年の間に、自国通貨建て1人当たり名目GDPは、
日本では422万円から428万円へと1.4%しか増えなかったのに対して、
アメリカでは3万6317ドルから6万3358ドルへと74.5%も増えた。
他方、市場為替レートは、00年も20年もほぼ105円~110円程度であまり変わらなかった。
このために、市場為替レートで換算すれば20年に日本はアメリカの63%になったということになる。
アベノミクス以前と同じ購買力を維持できていれば、日本の賃金はいまでもアメリカ並みであったはずだ。
ところがアベノミックスの期間に急激な円安が生じ、現在のような状況になったのだ。
したがって、現在の日本の低い賃金や「安い日本」を問題とするのであれば、
その責任はアベノミクスにあるということになる。
アベノミクス以前の円高は異常なものであり、企業(とくに製造業の輸出企業)が立ち行かなくなっていた。
それを金融緩和で円安にしたから日本が立ち直ったのだとと言う意見がある。
しかし、本来であれば、為替レートが円安になっても企業の利益が増えるはずはない。
なぜなら、円安によって輸出物価は高くなるが、同時に輸入物価も同率だけ上がるからだ。
企業の利益が増えたのは、輸入物価の値上がりを消費者価格に転嫁する一方で、
輸出物価の値上がりを労働者に還元しなかったからだ。
このようなメカニズムが企業利益を増加させたのだ。
本来であれば、円高に対して、技術革新で生産性を向上させて対応すべきだった。
低成長をもたらしたのは、技術開発が行なわれなかったからであり、
それは円安によって企業が安易に利益を増加できたからだ。
だから、円安政策こそが日本を貧しくした根本的な原因だということになる。
こうして、日本の地位は、円安政策を取り続けたアベノミクスの期間に急激に低下した。
それに対して韓国では、2000年から20年にかけて自国通貨建て、
1人当たり名目GDPが1386万2167ウォンから3733万3541ウォンへと2.69倍にもなった。
13年から20年だけをとっても、25.4%増加した。
これによって、韓国は世界経済における地位を高めたのだ。
韓国の1人当たりGDPは 直近では世界で29位(日本は第24位)だ。
こうして「日本がアメリカ並みから韓国並みへ」という変化が起きた。
「韓国並み」が続けばよい。しかし、これまでのトレンドが続けば、韓国と日本の差は拡大していくだろう。
日本は近い将来に台湾並みになり、マレーシア並みになる。
そこで止まらず、インドネシア並み、ベトナム並みになるのもそう遠い将来のことではないかもしれない。
(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)